遺産分割協議の仕方
目次
遺産分割協議とは
大切なご家族が亡くなった場合、被相続人(亡くなった方)が遺された財産を相続人で引き継ぎ、分配する「遺産相続」が行われます。
被相続人の遺言書がある場合には、その内容に従って遺産が分けられることになります(「被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め……ることができる。」(民法908条))。
他方、遺言書がない場合には、相続人全員で話し合って遺産をどのように分けるかを決めることになります。これが、「遺産分割協議」です。遺産分割協議の方法については、特に決まりがありません。したがって、裁判所への申し立てなどを行わずに、相続人の間で自由に協議して決めることができます。
遺産分割協議において注意すべきことは、協議の内容について、必ず相続人全員が同意していなければならないということです。法律上、相続財産は、相続人全員が共有している状態となっています(「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。」(民法898条))。そうすると、一部の相続人のみで遺産をどのように分けるか決めることはできず、全員の同意が必要となります(「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。」(民法251条))。そのため、一部の相続人の同意を得ないで行われた遺産分割協議は、これらの民法の規定に違反し、無効となります。
なお、遺言書で分割方法が定められていたとしても、相続人全員の同意があれば、遺言書の分割方法とは異なる方法で遺産分割を行うこともできます。
遺産分割協議の流れ
相続人を確定する
本コラムの1で見たように、遺産分割協議には相続人全員の同意が必要です。そこで、まずは、誰が相続人であるかを確定することになります。
法律上、相続人となり得るのは、子(民法887条1項)、被相続人(亡くなった方)の直系尊属(民法889条1項1号)、被相続人の兄弟姉妹(同項2号)、被相続人の配偶者(民法890条)などです。詳しくは、コラム「法定相続人と相続分」をご覧ください。
誰が相続人であるかを確定するには、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せて確認するのが確実です。被相続人が離婚・再婚していたり、第三者との間の子を認知していたりした場合、それを知らなかった親族が把握していない相続人がいることがあります。
戸籍の収集は、かなり手間がかかるケースもあり、また、調査漏れのおそれもあります。この点、弁護士など一定の資格を有する専門家であれば、戸籍法および住民基本台帳法に基づき、職務上請求により戸籍謄本や住民票などの交付を請求することができます。相続人の調査にあたっては、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本の取り寄せ、相続人全員の戸籍謄本や住民票の取り寄せなどを行うことができます。手続きが煩雑でお困りの場合には、専門家への相談もご検討ください。
相続財産を確定する
次に、被相続人がどのような財産を有していたか、調査する必要があります。
なお、相続財産であることが判明しても、以下のものは遺産分割の対象とはなりません。
- マイナスの財産(借金や、家賃の支払債務など)
実務において、マイナスの財産は遺産分割の対象とはされていません。
なお、日本では、相続人は、プラスの財産(預金や不動産など)だけでなく、マイナスの財産も相続することになっています(民法896条本文参照)。そして、借金や家賃の支払債務といった金銭債務は、分けることができる債務、すなわち「可分債務」です(※自動車などのように分けて渡すことができないものを引き渡す債務を、「不可分債務」といいます)。この「可分債務」については、「法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継する」とするのが判例(最判昭和34年6月19日)です。したがって、相続人の間で相続分とは異なる割合で相続債務を負担すると決めたとしても、債権者にはそれを主張することはできませんので、注意してください。 - 被相続人の一身専属的な財産
被相続人の一身に専属した権利義務は、民法896条ただし書によって、相続財産から除外されています。
被相続人の一身に専属した権利義務とは、たとえば、扶養請求権、離婚に伴う財産分与請求権などです。 - 生命保険金
法律上、相続の対象となる財産は、「被相続人の財産に属した一切の権利義務」(民法896条本文)です。
生命保険金については、受取人となるのは、受取人に指定された人であって、被相続人ではありません。そうすると、生命保険金は被相続人の財産に属しているとはいえないため、相続財産とはなりません。したがって、遺産分割の対象にもなりません。 - 祭祀財産(お墓、位牌など)
遺産分割に関する知識 ①相続人の中に未成年者がいる場合
相続人となる子が未成年の場合、未成年は単独で法律行為を行うことはできず、法定代理人(父母など)の同意が必要となります(民法5条1項本文)。遺産分割協議は法律行為にあたるため、未成年が単独で行うことはできません。
もっとも、当該未成年の法定代理人が父または母であるときに、その父または母も相続人である場合があります。遺産分割協議は、その行為の客観的性質上、相互間に利害対立を生ずるおそれがある行為です。そうすると、当該未成年とその父または母は利益が相反する関係となるため、父または母は子を代理して遺産分割協議を行うことができません。このような場合には、父または母は、遺産分割協議についての特別代理人の選任を家庭裁判所に請求する必要があります(民法826条1項)。
遺産分割に関する知識 ②特別受益
特別受益とは、相続人の中に被相続人から遺贈(遺言で行う贈与)や生前贈与を受けていた者がいる場合に、その分を控除して相続分を計算することで、相続人間の公平を図ろうとする制度です。
具体的には、被相続人が相続開始時(すなわち被相続人の死亡時)に有していた財産の価額にその者が受けた贈与の価額を加えたものを相続財産とみなしたうえで(これを「みなし相続財産」といいます。)、その者の相続分からその贈与の価額を控除して実際の相続分を算出することになります(民法903条)。
生前贈与とは、婚姻や養子縁組、生計の資本のための贈与をいいます。婚姻についての持参金・支度金はこれに含まれますが(したがって、特別受益となります。)、挙式費用はこれに含まれない(したがって、特別受益とはなりません。)とするのが一般的です(結婚式・披露宴の費用は特別受益に含まれないが、結納金は特別受益に含まれると判断して裁判例として、京都地判平成10年9月11日、結婚式の費用と結納金のいずれも特別受益に含まれないと判断した裁判例として、名古屋地判平成16年11月5日が挙げられます。)。
特別受益があった場合の計算 具体例
- 相続開始時の財産 8000万円
- 相続人 子A、子B
- 特別受益 Aについて生前の不動産購入資金贈与4000万円(①)
Bについて遺贈1000万円(②)
- まず、相続開始時の財産に特別受益の価額を加えて「みなし相続財産」を算出します。
本件では、Bに対して遺贈(②)がなされているところ、遺贈の場合には、遺贈の目的となる財産は相続開始時の財産に含まれているため、みなし相続財産の計算において別途加算する必要はありません。そうすると、8000万円+4000万円(①)=1億2000万円が「みなし相続財産」となります。 - 次に、法定相続分による分割を行います。
相続人は子A、子Bの2人なので、法定相続分は各2分の1です。
そうすると、1億2000万円÷2=6000万円となります。 - 最後に、特別受益の価額を控除して各自の具体的な相続分を算出します。
子Aについては、6000万円(法定相続分)-4000万円(①の特別控除分)=2000万円となります。
子Bについては、6000万円(法定相続分)+1000万円(②の遺贈)-1000万円(②の特別控除分)=6000万円となります。
なお、民法の改正(2023年4月1日施行)により、原則として、相続開始から10年が経過してしまうと、遺産分割の際に特別受益を主張することができなくなりますので、注意してください。
遺産分割に関する知識 ③寄与分
寄与分とは、相続人の中に被相続人の事業に協力したり、被相続人の療養看護に努めたりするなどの貢献をした者がいる場合に、その貢献を考慮して相続分を計算することで、相続人間の公平を図ろうとする制度です。
具体的には、被相続人が相続開始時(すなわち被相続人の死亡時)に有していた財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなしたうえで、その者の相続分に寄与分を加えて実際の相続分を算出することになります(民法904条の2)。
寄与分が認められるには要件があり、(1)相続人自らの寄与があること、(2)当該寄与行為が「特別の寄与」にあたること、(3)当該寄与によって被相続人の財産が維持または増加したという因果関係がそれぞれ認められなければなりません。「特別の寄与」にあたるのは、被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度を超える貢献であり、さまざまな要素を考慮してこれに該当するかどうかが決められます。
寄与行為には、以下の類型があります。
(a)家事従事型:被相続人の事業に関する労務の提供をした場合
(b)金銭等出資型:被相続人の事業に関して財産上の給付をした場合
(c)療養看護型:病気療養中の被相続人の療養看護に従事した場合
(d)扶養型:被相続人の生活費を出すなどして被相続人を扶養した場合
(e)財産管理型:被相続人の賃貸不動産の管理など被相続人の財産を管理した場合
寄与分があった場合の計算 具体例
- 相続開始時の財産 6500万円
- 相続人 子A、子B
- 寄与分 Aについて寄与分500万円
- まず、相続開始時の財産の価額から寄与分を控除し、その残額について遺産分割を行います。
本件では、(6500万円-500万円)÷2=3000万円がそれぞれに分配されます。 - 次に、控除した金額を、寄与分がある相続人の金額に上乗せします。
そうすると、500万円の寄与分があるAの相続分は、3000万円+500万円=3500万円、Bの相続分は3000万円となります。
なお、民法の改正(2023年4月1日施行)により、原則として、相続開始から10年が経過してしまうと、遺産分割の際に寄与分を主張することができなくなりますので、注意してください。
遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成する
協議が整ったら、その結果を遺産分割協議書として残しておくことで、後々問題が起こるのを防ぎましょう。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書のサンプル
遺産分割協議書は、遺産分割協議の結果を記録した重要な書類です。後述するように、相続に関する手続きの中で必要となる場合があります。
遺産分割協議書は、手書きとパソコンのどちらで作成してもよいことになっており、決まった書式もありません。
しかし、記載しておくべき項目や、作成にあたっての注意点がいくつかあります。
まずは、遺産分割協議書のサンプルをご覧ください。
遺産分割協議書(サンプル)
本籍 東京都 千代田区 麹町 〇丁目〇番〇号 最後の住所 東京都 千代田区 麹町 〇丁目〇番〇号 被相続人 被相続人の氏名 (令和〇年〇月〇日死亡) 上記の者の相続人( 栗林太郎 )、( 栗林次郎 )、( 栗林花子 )の全員は、被相続人の遺産について協議を行った結果、次の通り分割することに同意した。 1.相続人 栗林太郎 は次の遺産を取得する。 <土地> 所在 千代田区麹町〇丁目 地番 〇番〇 地目 宅地 地積 200.00㎡ <建物> 所在 千代田区麹町〇丁目〇番〇号 家屋番号 〇番〇 種類 木造 構造 瓦葺2階建 床面積 1階 80.00㎡ 2階 80.00㎡ 2.相続人 栗林次郎 は次の遺産を取得する。 [現金] 金50,000,000円 [預貯金] △銀行△支店 普通預金 口座番号12345678 □銀行□支店 定期預金 口座番号98765432 [株式] ◆証券会社 株式 100株 3.栗林太郎 は、第1項記載の遺産を取得する代償として、 栗林花子 に令和〇年〇月〇日までに、金3,000,000円を支払う。 4.本協議書に記載のない遺産及び後日判明した遺産については、相続人 栗林太郎 がこれを取得する。 以上のとおり、相続人全員による遺産分割協議が成立したので、本協議書を何通作成し、署名押印のうえ、各自1通ずつ所持する。 令和〇年〇月〇日 <相続人 栗林太郎 の署名押印> 住所 氏名 印 <相続人 栗林次郎 の署名押印> 住所 氏名 印 <相続人 栗林花子 の署名押印> 住所 氏名 印 |
記載しておくべき項目
- 遺産分割協議書であることが明確なタイトル
- 被相続人(亡くなった方)の氏名・死亡年月日・死亡時の住所
誰の遺産を対象とした協議結果であるかを明確にするためです。 - 協議の結果各相続人が相続することになった財産
各相続人が相続することになった財産については、明確にそれぞれの財産を区別できるような具体的な記載が必要です。
たとえば、不動産の場合には、登記事項証明書等に記載されたとおりの表記をし、預貯金の場合には、銀行名・支店名・口座番号を記載するようにしましょう。もっとも、預貯金の場合に残高の金額まで細かく記載すると、利子がついて金額が変動した場合に、当該財産と認められないこともあるようですので、注意してください。 - 協議の日付
- 相続人全員の署名・実印での押印
本コラムの1で述べたとおり、遺産分割協議は相続人全員で行わなければならないため、相続人全員の署名と押印が必要です。この際、押印に用いた実印の印鑑証明書を添付するのが望ましいでしょう(後述のとおり、相続に関する手続きにおいても必要となります)。
なお、相続人が未成年者である場合には、その法定代理人が代理して署名と押印を行います。 - 後日新たな遺産が見つかった場合の対処方法
注意点
- 遺産分割協議書が複数枚にわたる場合、それらが一つの遺産分割協議書であることを示すために、契印をする必要があります。契印は、相続人全員の実印で押印します。遺産分割協議書のページをめくって見開きにしたときに、その境界線上にまたがるように押印してください。
- 遺産分割協議書は、相続人全員分の通数を作成し、それぞれが1通ずつ原本を保管するようにしましょう。また、すべての遺産分割協議書が同じ内容のものであることを示すために、割印をする必要があります。契印と同じく、割印も相続人全員の実印で押印します。すべての遺産分割協議書を並べた後に少しずつずらし、すべての遺産分割協議書にまたがるように押印してください。
- 遺産分割協議書に用いた印鑑が実印であることを示すために、相続人全員の印鑑証明書を添付しておくことが望ましいです。印鑑証明書は、以下の「遺産分割協議書が必要となる相続に関する手続き」においても提出を求められる場合がほとんどです。
遺産分割協議書が必要となる相続に関する手続き
- 預金の名義変更や払戻し
- 株式の名義変更
- 不動産の名義変更
- 自動車の名義変更
- 相続税の申告
などの手続きにおいて、遺産分割協議書の提出が必要となります。また、このときに印鑑証明書の提出が求められることも多いです。たとえば、銀行で被相続人の預貯金口座を解約するときには、ほとんどの場合、遺産分割協議書に押印された実印の印鑑証明書が必要となります(参照:一般社団法人全国銀行協会)。このように、遺産分割協議書や印鑑証明書がない限り、銀行が預貯金口座の解約に応じてくれなくなっていることから、被相続人が亡くなる直前に被相続人の預金を解約するケースも多くみられます。このような解約については、後日他の相続人から不法行為や不当利得を理由に訴訟が起こされる原因になりますので、注意が必要です。
遺産分割協議がまとまらないとき・できないとき
遺産分割調停
相続人の間で話し合っても遺産分割協議がまとまらないときや、どこにいるかわからず連絡がとれない相続人がいるときなどには、「遺産分割調停」という家庭裁判所を介した手続きをとることになります。
調停は裁判所で行われる手続きですが、調停室という部屋において当事者のみで行われます。訴訟のように公開されるものではないため、調停の内容が第三者に聞かれるということはありません。
また、調停では、申立人と相手方(申立人以外の相続人)が順番に調停委員と話をするため、相続人同士が対面せずに話し合いを進めることができます。
(a) 申立て方法および費用
遺産分割調停の申立ては、相続開始地(すなわち被相続人の住所地)を管轄する家庭裁判所または当事者が合意して決めた家庭裁判所に、遺産分割調停の申立書を提出することによって行うことができます。
申立書の書式は、裁判所のホームページに公開されていますので(https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazityoutei/syosiki_01_34/index.html)、ダウンロードして使用することができます。
申立書には、以下の書類が添付書類として必要となります。
<戸籍など>
- 相続人全員の住民票
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
<相続財産についての書類>
- 預貯金の場合:預貯金の残高証明書または通帳や証書の写し
- 株式の場合:株式の預り証または残高証明書
- 自動車の場合:自動車の登録事項証明書の写しまたは車検証の写し
- 不動産の場合:不動産の登記簿謄本または登記事項証明書、固定資産税評価証明書
また、申立書には、収入印紙および連絡用の郵便切手を添付しなければならないため、その分の費用が必要となります。
- 収入印紙
どこの家庭裁判所に申し立てる場合でも、被相続人1名に対し1200円が必要です。 - 郵便切手
どこの家庭裁判所に申し立てるかによって異なる場合があります。
たとえば、ある家庭裁判所では、合計2950円分×(当事者数)の切手を添付することとされています(内訳:500円×2枚×(当事者数)、110円×10枚×(当事者数)、100円×5枚×(当事者数)、50円×5枚×(当事者数)、10円×10枚×(当事者数))。
なお、当事者が複数名いても同一の手続代理人が就いている場合には、当事者数は1名と数えられます。
(b) 遺産分割調停の進め方
遺産分割調停の申立てがされると、申立人と相手方に調停を行う日時・場所等が通知されます。
調停では、裁判官または家事調停官と2人以上の家事調停委員で構成される調停委員会が、中立公正な立場で、当事者それぞれの意見を聞いて、参加する相続人全員が納得する結論に至ることができるように努めます。
相続人全員が、ある遺産分割方法についてその内容でよいと合意できたときは、その合意内容が調停調書に記載され、調停は成立となります。しかし、どうしても合意できなかったときは、調停は不成立となります。調停が不成立となると、遺産分割調停は自動的に遺産分割審判に移行することになります。
(c) かかる期間
調停が開かれる日のことを調停期日といいます。調停期日は1~2か月に1回のペースで設けられます。1回の期日にかかる時間はおおむね2時間程度です。
基本的には、問題が解決するまで調停期日を重ねますが、合意できるめどが立たないような場合には、調停委員会が不成立の判断をすることがあります(家事事件手続法272条1項「調停委員会は、当事者間に合意……が成立する見込みがない場合……には、調停が成立しないものとして、家事調停事件を終了させることができる。」)。終了までにどのくらいの時間がかかるかはどのくらい円滑に話し合いが進むかによって大きく異なりますが、1年程度かかることを想定しておいた方がよいでしょう。
調停が不成立となり終了すると、家事事件手続法272条4項の規定により、当該遺産分割調停の申立てがあった時に遺産分割審判の申立てがあったものとみなされることとなりますので、遺産分割調停は遺産分割審判という手続きに移行します。
遺産分割審判
(a) 申立て方法および費用
遺産分割調停をすでに申し立てていた場合、その調停が不成立となると、上述のとおり自動的に遺産分割審判に移行します。
遺産分割調停を申し立てていない場合でも、必ず遺産分割調停を先に行わなければならないと決められているわけではないため、最初から遺産分割審判を申し立てることもできます。もっとも、まずは話し合いで解決できた方が望ましいことから、実際には、遺産分割審判を申し立てても、家庭裁判所が職権で遺産分割調停に付すことが一般的です。
遺産分割審判を申し立てる場合も、申立て方法や費用は遺産分割調停を申し立てる場合と変わりません。相続開始地(すなわち被相続人の住所地)を管轄する家庭裁判所または当事者が合意して決めた家庭裁判所に、必要書類を添付した申立書を提出することによって、申立てを行います。
(b) 遺産分割審判の進め方
遺産分割審判の場合も、遺産分割調停の場合と同様に、家庭裁判所によって指定された期日において手続きが進められることになります。
審判と調停との違いは、審判の方がやや訴訟(裁判)に近い手続きとなることです。
まず、審判において最終的な遺産分割方法を決定するのは、当事者ではなく裁判官です。審判では、調停委員会を介した話し合いではなく、原則としては相続人全員が裁判所で対面し、裁判官の指揮のもと審理が進んでいきます(調停委員はいません)。各当事者は、書面によって法的根拠に基づいた主張や立証を行わなければなりません。そして、裁判官は、その主張や提出資料を見て事実を調査し、遺産分割の対象となる財産の種類や性質、各当事者の生活事情なども考慮したうえで、審判を下します。もっとも、基本的には法定相続分どおりの分割方法となります。したがって、法定相続分とは異なる割合での分割方法を希望する場合には、その事実についての法律的な主張や証拠資料の提出が必要です。たとえば、裁判官に対して、他の相続人に特別受益があることや自己に寄与分があること(特別受益および寄与分については本コラムの2をご参照ください。)、あるいは不動産の評価方法などについて主張したい場合には、それらの客観的な証拠資料となるものを十分に集めて提出することが必要になります。この点、審判は調停よりも法律の専門的知識が必要となることから、手続き進行の難度が高いため、弁護士に依頼した方が、不利な状況に陥ることを回避しやすいと思われます。
なお、審判が訴訟に近い手続きになるといっても、調停と同様、公開の法廷で行われるわけではありませんので、第三者に内容を聞かれることはありません。
(c) かかる期間
審判が開かれる日のことを審判期日といいます。審判期日も調停期日と同様に1~2か月に1回のペースで設けられます。審判が下されるまでに半年~1年程度かかるケースが多いですが、当事者同士が激しく対立していたり、争点が多いような場合には、2~3年かかることもあります。
(d) 遺産分割審判が終了するとどうなるか
遺産分割審判において下された審判が確定すると、その審判は強制力をもつため、相続人はその審判の内容に従わなければならなくなります(家事事件手続法75条「金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。」)。たとえば、相続人Aから相続人Bに財産を引渡さなければならないという審判が下されているのにAがそれに従わなかった場合、BはAに対して強制執行を申し立てることができます。
遺産分割審判の内容に不満があり、それに従いたくないという場合には、審判が確定する前に、即時抗告という手続きをとる必要があります。
(e) 即時抗告とは
即時抗告とは、裁判官が下した審判に対する不服のことです。
ここで最も重要なことは、即時抗告には、申立てをすることができる期限が決まっているということです。申立ては、原則として、審判の告知を受けた日の翌日から2週間以内にしなければなりません(家事事件手続法86条)。期限を過ぎた場合、抗告は受け付けてもらえず、審判が確定してしまいますので、注意してください。
即時抗告は、審判をした家庭裁判所に抗告状を提出することによって申立てを行います。このときにも、調停や審判の申立てと同様に、収入印紙および連絡用の郵便切手分の費用がかかります。収入印紙については1800円ですが、郵便切手については申し立てる家庭裁判所によって異なることがありますので、確認が必要です。書式や記入例は、裁判所のホームページに掲載されています(https://www.courts.go.jp/saiban/syosiki/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_63/index.html)。また、抗告状に原審判の取消しまたは変更を求める事由を具体的に記載していないときは、即時抗告の提起から14日以内に即時抗告理由書を提出する必要もあります(家事事件手続法規則55条1項)。
即時抗告の審理は、基本的には高等裁判所による書面審理となります。当事者が主張や証拠資料などの書面を提出したうえで、裁判官によって最終的な判断が行われます。即時抗告を申し立てた人の主張が認められない場合には、抗告は棄却となります。主張が認められれば、原審判が取り消され、遺産分割についての決定が下されることとなります。
なお、即時抗告が棄却されたことに対する不服を申し立てたいということもあるかもしれませんが、非常に困難な要件をみたさなければならないため、通常はできないと考えた方がよいでしょう。
遺産分割協議成立後に遺産分割協議をやり直したい場合
たとえば、一度成立したものの遺産分割協議の結果について不満が出てきた場合、遺言書が見つかった場合、または把握していなかった遺産が見つかった場合などに、遺産分割協議をやり直したいということになるかもしれません。このような場合であっても、時間が経つと遺産分割協議をやり直せなくなるということはないため、もう一度遺産分割協議を行って遺産を再度分割し直すことは可能です。ただし、この場合にも、本コラムの1で述べたとおり、遺産分割には相続人全員の同意が必要です。
また、相続人全員の同意で遺産分割協議をやり直す場合以外にも、以下の場合には再度遺産分割協議を行うことができる場合があります。
(a) 相続人の一部を加えずに遺産分割協議がなされていた場合
その遺産分割協議は無効となるため、当然にやり直さなければならないことになります。
(b) 遺産分割の内容について重大な誤認をしたまま遺産分割協議がなされていた場合
民法95条に基づき、錯誤であるとして取消しをすることができる場合があります。
(c) 他の相続人や第三者に騙されたり脅されたりして遺産分割協議がなされていた場合
民法96条に基づき、詐欺または強迫であるとして取消しをすることができる場合があります。
なお、遺産分割協議がやり直せるとしても、相続開始から10年が経過している場合には、民法の改正(2023年4月1日施行)により、原則として特別受益・寄与分を主張することができなくなりますので、注意してください(特別受益・寄与分については、本コラムの2をご参照ください)。
栗林総合法律事務所でお手伝いできること
栗林総合法律事務所では、以下の業務を行い、遺産分割のお手伝いをさせていただいております。
- 相続人の調査(弁護士は、戸籍法および住民基本台帳法に基づき、受任している事件や事務の業務遂行のため必要があるときは、職務上請求によって、戸籍謄本や住民票などの交付を請求することができます。相続人の調査にあたっては、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本の取り寄せ、相続人全員の戸籍謄本や住民票の取り寄せなどを行うことができます。)
- 相続財産の調査
- 財産目録の作成
- 遺産分割協議書案の作成
- 他の相続人との連絡や協議
- 遺産分割協議の締結のサポート
- 被相続人の預貯金の銀行口座の解約手続き
- 被相続人の不動産の登記名義の変更手続き
- 税務申告書の作成および提出
- 相続税に関するアドバイス
- 遺産分割調停の申立ておよび手続き代理
- 遺産分割審判の申立ておよび手続き代理
- 上告
弁護士費用については、たとえば、相続人調査や相続関係図の作成の場合は10万円程度、相続人間で争いがないケースでの遺産分割協議書の作成の場合は20万円程度となります。お困りのことがございましたら、まずはご相談ください。