遺言と遺留分

  • 公開日:2024年10月21日

目次

遺言の種類

被相続人の遺言書がある場合には、原則遺言書に基づいて相続が行われます。

遺言書には、自筆証書遺言、秘密証書遺言、公正証書遺言の3つの種類があります。

自筆証書遺言

遺言者が遺言書の内容・日付・氏名を自書し、捺印したものを自筆証書遺言といいます。遺言の種類のうち、一番数が多いのは自筆証書遺言です。

自筆証書遺言については、すべて自署(手書き)しなければならないとされていましたが、民法の改正により、財産目録については、タイプした文書を使用することができることになりました。

日付の記載は絶対的必要記載事項ですので、日付の記載のない遺言書や、署名欄が自署(手書き)されていない遺言書も無効となります。
また、遺言書が複数ある場合は、後に作成した遺言書のみが有効となり、それ以前に作成された遺言書は無効となります。

遺言書の有効性を争い訴訟が提起されることは多くあります。

遺言書の形式が問題とされることもありますが、多くのケースでは、遺言書を作成した被相続人が遺言書の作成時に意思能力を有していたかどうかが争われます。

病院で意識のない被相続人の手を取って無理やり書かせたのではないかとか、遺言書を作成した時点ではすでに認知症の症状が出ており、遺言書の内容を理解する能力に欠けていたのではないかとの主張です。

秘密証書遺言

遺言者が遺言書を作成、署名、捺印した上で封印した状態で、封紙に公証人および2人以上の証人が署名・捺印等をしたものを秘密証書遺言といいます。

公正証書遺言

2人以上の証人の立ち合いの下で、遺言者の指示により公証人が遺言書の内容を筆記し、遺言者、公証人、2人以上の証人が、内容を承認して署名・捺印したものを公正証書遺言といいます。
公正証書遺言は、公証役場で保管されます。

作成した遺言の保管方法

改正前は、作成した遺言書の保管方法については、法律上特に規定はありませんでした。

公証役場で保管されることから改ざんや紛失の恐れがない公正証書遺言と異なり、自筆証書遺言は自分で保管することが多く、公正証書遺言と比べて改ざんや紛失のリスクが大きいとされてきました。

このようなリスクから派生する相続問題を回避する目的で、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」とともに「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下、「遺言書保管法」といいます)が成立し、法務局において自筆証書遺言書の保管を行う制度が、新設されました。

この制度は、遺言者本人が、遺言者の住所地もしくは本籍地又は遺言者所有の不動産の所在地を管轄する法務局に出頭し、申請書、遺言書、その他添付書類等を提出したうえで、自筆証書遺言の保管を申請するものです。

郵送申請や、代理人による申請は認められておらず、保管対象も自筆証書遺言に限られ、公正証書遺言の正本や秘密証書遺言については認められていません。保管事務は、法務大臣が指定する法務局が遺言書保管所として行い、遺言書管理官が申請に係る審査をすることになります。
但し、この法律の施行は2020年7月20日ですので、それまでは保管の申請ができません。

遺言書の検認

自筆証書遺言と秘密証書遺言については、遺言書を保管していた場合や発見した場合、開封せず、家庭裁判所での遺言書の検認が必要です。遺言書の記載方式が民法の形式にのっとって記載されたものかどうかを確認します。

公正証書遺言は検認を行う必要はありません。遺言の検認は、遺言書の原本を裁判所に持参し、裁判所にハンコを押してもらうだけの簡単な手続きです。遺言の検認を行うことを忘れた場合であっても、遺言書を無効にするわけではなく、検認を行わなかった相続人にペナルティが課せられるのみです。

遺言執行者の指定

遺言書の内容を忠実に実現するため、遺言書の中で「遺言執行者」を指定することができます。
遺遺言執行者が指定されていなかった場合は、家庭裁判所に選任してもらうことができます。

遺言の内容と異なる遺産分割協議の効力

遺産については、遺言の通りに相続するのが原則ですが、遺言書の中で、被相続人が遺言と異なる分割協議を禁止していない場合で、関係者全員の同意がある場合には、遺言とは異なる分割を行うことができます。

遺留分

被相続人は、遺言書で誰に財産を相続させるか自由に指定することができますが、一部の相続人は遺産を最低限取得する権利として遺留分が認められています。民法では、遺言は遺留分の規定に違反することはできないと規定されていますので、遺留分は遺言より優先します。

遺留分を有する者を遺留分権利者といい、どの相続人が該当するかが法律で定められています。

遺留分権利者となる者は、兄弟姉妹以外の法定相続人です。具体的には、被相続人の配偶者、被相続人の子供、被相続人の孫、被相続人の親、被相続人の祖父母です。被相続人の子が亡くなっている場合、孫が代襲相続しますが、遺留分の権利も取得することになります。

遺留分請求できないのは、被相続人の兄弟姉妹、相続放棄した者、相続欠格者、相続排除された者、包括受遺者などです。

遺留分侵害額請求権

遺言が遺留分の規定に違反していて、取得した遺産が遺留分に満たない場合でも自動的に遺留分が認められるわけではなく、遺留分を侵害された相続人が、他の相続人に不足分を請求することによって遺留分が認められることになります。

遺留分が侵害された場合に他の相続人に不足分を請求できる権利のことを遺留分侵害額請求権といいます(民法1046条)。遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内、または相続開始の時から10年以内に請求しておかないと権利が消滅してしまいます。

請求の形式に決まりはありませんが、期間内に請求したことの証拠を残すために、配達証明付き内容証明郵便で請求することが多いです。1年以内に内容証明郵便による請求を行った場合には、その期間内に訴訟を提起しなくても遺留分減殺請求権は維持されます。遺留分減殺請求の対象は、遺贈、生前贈与、死因贈与の3種類です。

遺留分の割合は、両親が請求する場合は3分の1、それ以外のケースでは2分の1と定められています。
遺留分の計算において相続人全員の遺留分の合計を総体的遺留分と呼んでいます。相対的遺留分は、相続人が配偶者のみ、子のみ、配偶者と子、配偶者と父母、配偶者と兄弟姉妹の場合に2分の1となり、相続人が父母のみの場合には3分の1になります。

遺留分の割合

次に各相続人の遺留分の割合は、総体的遺留分に遺留分権利者の法定相続分を掛けて計算します。

各相続人の遺留分の割合を個別的遺留分と呼ぶことがあります。例えば、相続人が配偶者と子2人だった場合、総体的遺留分は2分の1となり、配偶者と子2人の法定相続分は配偶者が2分の1、子がそれぞれ4分の1であることから、配偶者の個別的遺留分は1/2×1/2=1/4、子の個別的遺留分は1/2×1/4=1/8になります。

相続人が配偶者と被相続人の母だった場合には、総体的遺留分は2分の1、配偶者の法定相続分は3分の2、被相続人の母の法定相続分は3分の1であることから、個別的遺留分は、配偶者については2/6、被相続人の母については1/6になります。

遺留分侵害額の計算

遺留分権利者は、遺留分侵害額請求をしなければ、遺留分を受けることができませんが、遺留分侵害額は以下のように計算します。

遺留分減殺額=「遺留分の基礎となる財産」
       ×「遺留分割合(相続人全員の遺留分合計)」
       ×法定相続分
       -「遺留分権利者の得た利益」

※「遺留分の基礎となる財産」とは、被相続人が相続開始時に持っていた財産(遺産)に、特別受益、特別受益以外で相続開始前の1年間になされた生前贈与、遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた特別受益にあたらない贈与、不相当な対価によりなされた有償行為を加え、そこから被相続人の債務を引いて計算します。

※「遺留分権者が得た利益」とは、相続によって得た利益に遺贈や特別受益を加え、相続した債務の額を引いて算定します。