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リビングトラスト(Living Trust)

Living Trust(生存信託)とは、自分の財産(不動産、動産、銀行預金、証券など)を、自分の死後に、特定の誰かに相続させたいと考える者が、自らの生存中に設定する信託のことを言います。当事務所ではLiving Trustについてのコンサルティングや信託財産の管理及び処分、日本への送金手続きなどのサービスを行っています。

目次

Living Trust(生存信託)とは

Living Trust(生存信託)とは、自分の財産(不動産、動産、銀行預金、証券など)を、自分の死後に、特定の誰かに相続させたいと考える者が、自らの生存中に設定する信託のことを言います。信託のことを英語でTrustと言います。信託を設定する者を信託設定者といい、英語では、Trust-Maker、Settlor、Trustor、Grantorなどと表現されます。信託設定者(委託者)からの委託により信託財産を受領し、管理するものをTrustee(受託者)といいます。Trustee(受託者)は、信託財産の収支の状況を管理し、税務申告を行ったりします。信託財産から利益を受ける者をBeneficiary(受益者)と言います。Beneficiary(受益者)は、個人の場合も法人の場合も、その他の団体の場合もあります。

自益信託と自己信託

一般的な信託では、信託設定者の財産から信託財産を分離させることを主たる目的として信託が設定されますので、信託の設定者(Trustor)と受託者(Trustee)と信託財産から利益を受ける者(Beneficiary)はそれぞれ別の人(法人)になります。しかし、プロベイト手続きを回避するためのLiving Trustでは、信託の設定者は、生存中は自ら信託財産の管理を行い、そこから生じる利益を受けることを希望しています。そこで、Living Trustを作成する場合は、ほとんどの場合において、設定者(Trustor)と受益者(Beneficiary)が同じ人物となります。このように設定(Trustor)と受益者(Beneficiary)が同一人物となる信託契約を、自益信託と言います。また、信託の設定者(Trustor)と受託者(Trustee)が同一人物となることもできます(日本の信託法ではこのような信託のことを自己信託と呼んでいます)。Living Trustの場合、信託の設定者が自分の生存中は信託財産を自ら管理したいと考えるのが通常です。このように信託設定者が自ら受託者となって信託財産の管理を行いながら、自分が死んだときには承継受託者(弁護士や信託管理会社)に信託財産の管理を委ねるのが一般的です。

Living Trustを設定する目的

アメリカ合衆国では、遺産相続について管理清算主義が取られていますので、被相続人が亡くなった時点で相続財産はエステイト(Estate)という相続財団を構成し、裁判所が選任した相続財産管理人又は遺言執行者が相続財産を管理し、税金やその他の負債を弁済した後に余った財産があればそれを相続人に分配することになります。いわゆるプロベイトという手続きです。しかし、プロベイト手続きを行う場合には、相続財産の分配までに最低でも8か月程度の期間を要し、弁護士費用なども含め、多額の費用の支払いを必要とします。これに対しLiving Trustを設定している場合は、信託に入れられた財産は相続財産を構成しませんので、プロベイト手続きも不要となります。そこで、アメリカ合衆国では、プロベイト手続きを回避するために、生存中からLiving Trustを設定することが多く行われています。なお、遺言(Will)は相続財産をだれに相続させるかを決定する重要な書類になりますが、遺言書(Will)を書いただけではプロベイト手続きを回避することはできません。

Living Trustの種類

Living Trustは、信託契約書を作成する方法で設定されますが、設定者が生存中はいつでも理由なしに信託契約を取り消すことができるRevocable Living Trust(取消可能信託)と、信託設定者が一旦信託契約を締結した場合には、その後信託契約を取り消すことができないIrrevocable Living Trust(取消不能信託)の2種類があります。

Revocable Living Trustとは

Revocable Living Trustとは、撤回可能生前信託のことを意味します。単にRevocable Trust(撤回可能信託)と言われることもあります。Revokeは、「撤回する」とか「取消す」という意味があり、Revocableは撤回(取消し)することができるという意味で、「撤回可能」又は「取消可能」という意味になります。Revocable Living Trustでは、信託の設定者はいつでも信託契約を取り消すことができます。また、信託契約の全部を取り消すのではなく、一部を修正するということもできます。信託設定者が、その生存中に信託財産に対してコントロール権を有していたいと考える場合は、Revocable Ling Trustを設定することで、いつでも信託契約を取り消したり修正したりすることができます。実際にも大部分の生前信託については、Revocable Living Trustの形で設定されています。

Irrevocable Living Trustとは

Irrevocable Living Trustとは、取消不能生前信託を言います。信託の設定者は、信託契約書に名前のある全ての当事者の同意を得ない限り信託契約を取り消したり、その内容を変更したりすることができません。信託の設定により信託財産に対する権利は、信託設定者の財産から離れて確実に信託に移転することになります。

Living Trustの税務処理

Revocable Living Trustを設定した場合でも、信託設定者が受益者でもある自益信託の場合には、税務上は信託による権利移転を認識せず、信託財産は依然として信託設定者の財産とみなされます。従って、信託財産について信託設定者とは別の納税者番号を取得しなければならないわけではありません。一方、Irrevocable Living Trust(撤回不能信託)の場合は、信託財産は完全に信託のものとなり、信託設定者の財産から切り離されることになります。信託自体が納税義務を負うことになります。Irrevocable Living Trustが設定された場合は、信託財産について独自の納税者番号を取得する必要があります。また、信託財産管理人はIRSに対してForm1041(U.S. Income Tax Return for Estates and Trusts)を提出する必要があります。

Living Trustの作成

Living Trustについては、アメリカ合衆国の州ごとに法律がありますので、信託契約書の作成や調印については、信託を設定しようとする州の法律に従う必要があります。アメリカ国内に財産を有する日本人は、アメリカに居住しているか日本に居住しているかにかかわらず、アメリカで有効な信託契約書を作成することが可能です。但し、承継受託者についてはアメリカに居住している人を選任する必要があります。信託契約書の作成にかかる弁護士報酬については、通常2000ドルから3000ドル程度かかるとされています。また、不動産を信託財産とするためには、公証人の面前でGrant Deedを作成して登録事務所(Recorder Office)に登録(Recording)する必要があります。また銀行預金を信託財産とするためには、金融機関への通知を必要とします。栗林総合法律事務所では、アメリカに住んでいる日本人や、日本に住んでいる日本人がエステートプランニングの一環としてLiving Trustを作成する場合のサポートを行っています。Living Trustの作成を検討されている方は是非栗林総合法律事務所までご連絡ください。

Living Trustの内容

Trust Agreement(信託契約書)には、信託の設定、生存中の資産の管理、設定者が死亡した時の受託者の義務、残余財産の分配方法、一般条項などが定められます。信託設定者が生存している間は、信託財産から生じる利益は信託設定者に帰属することになります。信託設定者が死亡した場合には、税金や費用などを支払い、残余の財産について相続人(その他の受益者)に帰属するよう指定されます。残余財産の帰属については順序を定めるのが通常です。例えば、私の全ての財産はご主人が相続するものとし、ご主人が自分より先に死亡している場合は、甥である山田太郎と姪である山田花子に相続させるというような記載がなされることになります。栗林総合法律事務所では、Living Trustの内容を確認し、依頼者にとって不利な点がないかどうかについてのアドバイスを行っています。Living Trustの内容について不安がある場合は、栗林総合法律事務所にご相談ください。

Pour Over Willの作成

Pour Over Will(遺言)というのは、信託設定者の生存中に信託に入れられなかった全ての財産を信託設定者の死亡時に信託の対象とすることを確認する遺言書になります。Living Trustでは、信託設定者の財産をできるだけ幅広く信託の対象とするとしていますが、信託設定者の財産は日々変動が生じていますので、信託設定者の死亡時において全ての財産が必ずしも信託の対象となるとは限りません。もし、信託設定者の財産のうち、信託の対象とならない財産がある場合には、その財産に対してプロベイト手続きやSmall Estate Affidavitの手続き(財産が少額の場合)をとる必要が生じてきます。これに対してPour Over Willのある場合には、信託契約書に記載されていない財産についても信託の対象となりますので、プロベイト手続きが回避され、信託設定者(遺言書の作成者)の意思を貫徹することができることになります。

受託者通知

Living Trust(生存信託)の設定者が死亡した場合、受託者は、米国遺言検認法に基づき、本来の相続人に対して、故人の財産に対して信託が設定されていること、信託設定日、承継受託者の氏名・住所・電話番号、信託の管理地、信託に関する資料を閲覧できることを通知する義務があります(「受託者通知」と言います)。受託者通知を受け取った法定相続人は、通知書の受領日から120日以内であれば信託契約についての異議を述べることができます。信託財産の受託者から受託者通知を受領した相続人が120日の期間内に異議を述べなかった場合は、信託契約の内容は確定し、受託者は信託契約書の内容に従い信託財産の処分や分配を行うことができることになります。このように受託者通知は法律上の義務ですので、日本の居住者が法定相続人に該当する場合は、アメリカの信託財産の受託者から突然信託契約に関する通知書が送られてくることがありますが、信託契約書の内容について特に異議がある場合を除き、そのまま放置しておいても問題ありません。反対に信託契約の内容について異議がある場合は120日の待機期間内に受託者に対して異議を述べる必要があります。

Living Trustの内容を争う方法

Living Trust(生前信託)は公証人(Notary Public)の面前で作成されることが多く、その有効性を争うのが難しいのが一般的です。Living Trust(生前信託)の有効性を争う一般的方法としては、設定者が信託契約作成時点において意思能力を有していなかったことや「脅迫」や「不当な影響」を受けていたことを主張することになります。また、Living Trust(生前信託)がアメリカにおいて作成され、日本に所在する不動産について登記がなされていない場合(対抗要件が具備されていない場合)には、日本の不動産に対してLiving Trust(生前信託)の効力が及ばないと主張できる可能性もあります。

遺留分侵害額請求

相続については、被相続人の本国法が準拠法となりますので(法の適用に関する通則法36条)、遺留分の制度があるかどうかは、準拠法によって決定されることになります。この点、アメリカ合衆国には日本のような遺留分の制度がありませんので、被相続人の本国(国籍のある国)がアメリカ合衆国の場合は、アメリカの法律が適用になり、遺留分の制度は適用されないことになります。これに対し、被相続人が日本国籍であり、日本が本国の場合には、日本法が準拠法となりますので、遺留分の制度が適用になることになります。日本の遺族はLiving Trustの受益者(Beneficiary)に対して遺留分侵害額請求を行うことができる可能性があります。

受益者による相続税の申告

信託設定者が死亡し、トラストの内容に基づき受益者に権利が移転した場合、受益者は遺産税の申告を行う必要があります(但し、アメリカの市民権を持つほとんどの納税者は基礎控除の範囲内として免除されています)。信託設定者が死亡したことで、受益権を取得する者は、日本においても相続税(法定相続人が受益者となる場合)や贈与税(法定相続人以外の者が受益者となる場合)の申告義務があります。

栗林総合法律事務所のサポート業務

Living Trustの作成に関する栗林総合法律事務所のサービス内容は次の通りです。

  • Living Trustについてのコンサルティング
  • Living Trust設定についてのサポート
  • 信託財産の管理及び処分
  • 日本への送金手続き
  • 日本の相続税法に関するコンサルティング