W-8BENとは

  • 公開日:2024年08月16日

【執筆者情報】

栗林 勉

代表・パートナー弁護士、米国ニューヨーク州弁護士

栗林総合法律事務所の代表。米国ニューヨーク州の弁護士資格を有する国際弁護士。海外に資産のある方の相続手続きの他、国際的紛争の解決や国際取引に関する契約書の作成、中小企業の海外進出支援など、国際法務に関する業務を幅広く扱う。X(旧Twitter)

目次

W-8BENとは

W-8BENの正式名称は、Certificate of Foreign Status of Beneficial Owner for United States Tax Withholdingです。

直訳すれば、「アメリカ合衆国における源泉徴収のための受益者の海外における地位についての証明書」ということになります。

W-8BENは、アメリカに住所を有しない外国人(Non Resident Alien)(NRA)についての源泉徴収の要否を判断するために、アメリカに住所を有しない外国人(Non Resident Alien)(NRA)の税務情報を米国内国歳入庁(Internal Revenue Service)(IRS)に提出させることを目的とする書類です。

W-8BENは、銀行や証券会社などが納税義務者から取得し、IRSに提出することになります。
W-8BENの日本語版・英語版のフォーマットについては本コラムの末尾をご参照ください。

外国人(NRA)の利益についての源泉徴収義務

アメリカの金融機関は、アメリカに住所を有しない外国人(Non Resident Alien)(NRA)の受け取る利息(interest)、配当金(dividend)、賃料(rents)、ロイヤルティ(royalty)について30%の源泉徴収を行う必要があります。

利息、配当金、賃料、ロイヤルティなど固定金額で、毎年または一定の期間ごとに受け取ることになる収入をFDAPと言います。
FDAPの源泉徴収は受け取る金額の30%が原則です。

W-8BENを提出する場合のメリット

アメリカに住所を有しない外国人(Non Resident Alien)(NRA)は、W-8BENを提出することによって、30%の源泉徴収が10%に減額されることになります。

W-8BENを提出しない場合の源泉徴収税率は30%となります。
W-8BENが、利子や配当金などを受け取る受益者が海外(日本)に在留していることの証明書ということになります。

金融機関のW-8BEN徴取義務

銀行やその他の金融機関は、FDAPの報告を行う際、アメリカに住所を有しない外国人(Non Resident Alien)(NRA)に利息、配当金、賃料、ロイヤルティなど(FDPA)を支払う際には、W-8BENを取得し、事務所において保管しておく必要があります。

アメリカに住所を有しない外国人(Non Resident Alien)(NRA)は、W-8BENの必要事項を記載したうえで、署名して金融機関に提出します。

フォーム1040NR

アメリカに住所を有しない外国人(Non Resident Alien)(NRA)がW-8BENを提出しない場合、FDPAに課せられる源泉徴収税率は30%となります。

但し、日本人の場合は、アメリカ合衆国との間で租税条約が締結されていますので、事業年度末に1040NR Tax Returnを提出すると源泉税率は10%になります。その結果、差額の20%分について還付を受けることができます。

W-8BENを提出しなかった場合

アメリカに住所を有しない外国人(Non Resident Alien)(NRA)が利息、配当金、賃料、ロイヤルティなど(FDPA)を受け取る際に、W-8BENを提出しなかったとしても、30%の源泉徴収がなされるだけで、ペナルティなどはありません。

後日、1040NR Tax Returnを提出することで20%の源泉税率分の還付を受けることができますので、タイミングが異なるだけで結果において差異は生じないことになります。

W-8BENを作成する際に必要となる情報

W-8BENを作成する際には、ソーシャルセキュリティナンバー(SSN)、ITIN(Individual Tax Identification Number)(個人の租税識別番号)又はFTINを必要とします。

アメリカ合衆国以外に居住する者で、もしこれらを所有していない場合、ITIN番号などを申請して取得する必要があります。

ITIN番号を取得するためには、Form W-7(Application for IRS Individual Taxpayer Identification Number)をIRSに提出する必要があります。

米国居住者又は米国永住者の場合

米国居住者や米国永住者が利子や配当金を受け取る場合は、W-8BENの提出は必要ありません。
W9というフォームを提出することになります。

IRA口座(Individual Retirement Account)とは

日本人がアメリカで長く居住し、アメリカの会社に勤務していた場合、アメリカで個人積立年金(IRA)(Individual Retirement Account)に加入していることがあります。

IRAには、年金の拠出段階で所得税が課税されないTraditional IRAと、拠出段階でいったん所得税を支払うRoss IRAの2種類があります。

Traditional IRAの場合、所得税の繰り延べがなされていますので、拠出者が亡くなったような場合には、受益者はこれまで積み立てた元金及び運用益に対して所得税を支払う必要が出てきます。

これに対し、Ross IRAの場合は、元本、運用益ともに非課税となります。

Traditional IRAの受益者(例えば退職金の積み立てを行った人の相続人)が海外居住者の場合(例えば日本に居住している場合)、元本及び運用益の全部について30%の源泉徴収がなされるのが原則です。

但し、受益者が海外居住者の場合、W-8BENを提出することで、源泉徴収税率を10%とすることができます。

日米租税条約(平成16年条約第2号)第17条

日米租税条約(平成16年条約第2号)第17条には、「次条2の規定が適用される場合を除くほか、一方の締結国の居住者が受益者である退職年金その他これに類する報酬(社会保障制度に基づく給付を含む。)に対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課することができる。」と規定されています。

日米租税条約の条文からする限り、退職年金の拠出者の居住地がアメリカであるかどうかや年金がアメリカから支給されるかどうかにかかわらず、受益者が日本に居住している限り、日本でのみ課税されることになると思われます。

日本での所得税の申告

IRA口座の受益者が日本に居住している場合、拠出金を超える部分の所得については、日本で所得税の申告を行うことになります。

外国で納めた税金については外国税額控除の適用を受けることができます。

専門家によるアドバイスの必要性

W-8BENの作成についてはIRSからガイドラインが公開されていますので、だれでもインターネットでその内容を確認することができます。

しかし実際にW-8BENを作成しようとする場合には、複雑な内容を把握する必要があります。
また、日米租税条約の適用についても理解しておく必要があります。専門的な税務アドバイスを受け、正確で適切な手続きを行うことが重要です。

栗林総合法律事務所におけるサポート

栗林総合法律事務所では、日本人の皆様がアメリカ合衆国で利息(interest)、配当金(dividend)、賃料(rents)、ロイヤルティ(royalty)、年金(annuities)を受け取る際に、W-8BENの作成提出についてサポートしています。

W-8BENの作成についてお知りになりたい方は栗林総合法律事務所までお問い合わせください。

W-8BENの日本語版・英語版のフォーマット

W-8BENの日本語版・英語版のフォーマットは以下のPDFをご参照ください。

W-8BEN 英語版
W-8BEN 日本語版