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国際相続における相続放棄

日本の法律では包括承継主義が採用されていますので、相続人は被相続人(お亡くなりになった人)の資産と負債をそのまま全部承継することになります。被相続人が多額の借金を背負っている場合は、相続人はその借金をそのまま背負ってしまうことになります。このような結果は相続人に対して非常に酷な結果となる場合があります。そこで日本の民法では、相続人が相続放棄をした場合には、資産も負債も相続しないこととする制度を採用しています。相続放棄は、資産と負債の両方を相続しない場合ですので、資産のみを承継し、負債については承継しないということはできません。相続人や被相続人が海外に居住している場合にも日本の家庭裁判所で相続放棄ができるかどうかはケースごとに取り扱いが異なってくることになります。相続人や被相続人が海外に居住している場合の相続放棄については専門家のサポートを必要とします。栗林総合法律事務所は、相続人または被相続人が海外にいる場合の相続放棄手続きをサポートしています。国際相続の場面における相続放棄を検討されている場合は栗林総合法律事務所にお問い合わせください。

目次

相続放棄の準拠法

日本の国際私法では、相続放棄ができるかどうかは、相続に関する法律問題ですので、被相続人(お亡くなりになった人)の本国法が準拠法となります(法の適用に関する通則法36条)。被相続人が日本人の場合は、被相続人の本国法は日本法になりますので、被相続人が死亡した時点で被相続人や相続人が日本国内に住んでいたか外国に住んでいたかにかかわらず、日本法が準拠法となります。被相続人が外国人の場合は、被相続人の本国法(被相続人が国籍を有している国の法律)が準拠法となります。例えば、被相続人がフランス人の場合は、本国法はフランス法になりますので、フランス法が準拠法となります。但し、被相続人の本国の国際私法で、被相続人の住所地の法を準拠法とするなど反致が認められている場合があります。この場合において、その被相続人(外国人)が死亡した時点で日本に住所を有していた場合には、反致の適用により、日本法が準拠法となることになります。反致の適用を主張しようとする当事者(相続放棄の申述受理の申立てを行う相続人)は、日本の家庭裁判所に対して、本国の国際私法によって反致が成立することの説明を行う必要があります。

包括承継主義と管理清算主義

日本では包括承継主義が取られていますので、相続人は被相続人の資産と負債を包括的に承継するのが原則となります。これに対し管理清算主義を採用する国においては、相続財産は相続財団(Estate)を構成し、裁判所が選任した相続財産管理人が相続財団の管理処分を行い、残余の財産を相続人に分配することになります。管理清算主義を採用する国においては、相続人は相続財団がプラスの場合に資産の分配を受けるだけであって、相続財団がマイナスの場合には、負債を承継することはありません。その結果、相続人が相続によって借金を背負うということはありませんので、相続放棄の制度も必要ないことになります。

家庭裁判所の管轄権

家事事件手続法では、「裁判所は、相続に関する審判事件について、①相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、②住所がない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき、③居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していた時を除く)は、管轄権を有する」と規定しています(家事事件手続法3条の11第1項)。従って、日本の家庭裁判所で相続放棄の手続きをとるためには、上記に記載した家事事件手続法3条の11第1項の要件を満たす必要があることになります。

被相続人が日本国内に住所や居所を有する日本人の場合

被相続人(お亡くなりになった人)が日本国内に住所や居所を有する日本人の時は、日本の家庭裁判所が相続放棄の申述受理についての管轄権を有することになります(家事事件手続法3条の11第1項)。このように相続放棄の申述書の受理に関する裁判管轄は被相続人(お亡くなりになった人)の住所や居所をもとに判断されますので、相続人(相続財産を受け取る人)が日本に住所を有するかどうかや、相続人が日本国籍を有するかどうかは関係ありません。また、被相続人が日本人の場合は、本国法である日本法が準拠法となりますので、相続放棄の実体法(相続放棄の期間や相続放棄の撤回の可能性などの問題)は日本法に従うことになります。

被相続人が海外に住所を有する日本人の場合(日本に住民票がある場合)

住所とは、「生活の本拠」を意味します(民法22条)。生活の本拠とは、その者の生活に最も関係の深い全生活の中心地とされています。従って、生活の本拠については様々な事情を考慮して判定されることになります。日本人が海外に旅行中である場合や、海外に駐在中であるような場合であっても、日本に住民票がある場合は、生活の本拠(住所)は日本であると言うこともできます。実際には、日本人である被相続人(お亡くなりになった人)が、死亡した時点において日本に住民票を有していた場合には、市町村の発行する住民票除票を提出することで相続放棄の申述を受理してもらうことができます。このように相続放棄の申述書の受理に関する裁判管轄は被相続人(お亡くなりになった人)の住所や居所をもとに判断されますので、相続人(相続財産を受け取る人)が日本に住所を有するかどうかや、相続人が日本国籍を有するかどうかは関係ありません。被相続人が日本人の場合は、本国法である日本法が準拠法となりますので、相続放棄の実体法(相続放棄の期間や相続放棄の撤回の可能性などの問題)は日本法に従うことになります。

被相続人が海外に住所を有する日本人の場合(日本に住民票がない場合)

被相続人(お亡くなりになった人)が日本国籍を有する場合でも、長く海外に居住しており、日本に住民票がない場合があります。また、日本人が外国人と結婚し海外に移住した際に、転出届を出すことで住民票がなくなることがあります。被相続人が海外に住所を有し、日本に住所を有しない場合(住民票を有しない場合)は、相続放棄について日本の家庭裁判所は管轄を有しないのが原則です(家事事件手続法3条の11第1項)。従って、日本の家庭裁判所に対して相続放棄の申述を行うことはできません。この場合、被相続人が住所を有する地の裁判所において相続放棄の手続きをとることになります。

緊急管轄による相続放棄の申述

上記6記載の通り、被相続人が海外に住所を有する日本人の場合、相続放棄の準拠法は日本法となりますが、家事事件手続法3条の11第1項に定める要件に該当しないため、日本の家庭裁判所では相続放棄の申述を受理してくれないことになります。この場合、被相続人の住所を有する地の裁判所において相続放棄の手続きをとることになります。しかしながら、例えば、被相続人がアメリカのカリフォルニア州に住所を有して亡くなった場合、アメリカのカリフォルニア州の裁判所において相続放棄の手続きをとることになりますが、カリフォルニア州では管理清算主義をとり、相続財団がプラスの場合のみ相続人に財産が分配され、相続財団がマイナスの場合には、相続人は債務を承継することはありません。その結果、カリフォルニア州では、相続放棄の手続きがありません。従って、被相続人がカリフォルニア州に居住していて亡くなった場合、日本に居住する相続人は、被相続人が残した日本の債務について、日本でもカリフォルニア州でも相続放棄ができないことになり、相続人にとって非常に酷な結果となってしまいます。そこで、このような場合には、日本の裁判所では、緊急管轄を認め、日本の裁判所での相続放棄を認めてくれることがあります。緊急管轄は、東京都千代田区の裁判所とされていますので、東京家庭裁判所に対して申述する必要があります。

緊急管轄を認めてもらうための要件

相続放棄の申述受理について緊急管轄を主張する場合は、単に相続人が日本に居住しており、日本の裁判所で手続きをするのが便利だと主張するだけでは足りません。相続放棄の申述受理の申立てを行う人が日本の家庭裁判所において緊急管轄を認めてもらうためには、次の観点からの主張立証が必要とされています。

    1. 被相続人の住所地の裁判制度で相続放棄の制度がないこと
    2. 被相続人の住所地の国において本件における相続人に適用される法(その地の国際私法を適用した後に適用される法)に相続放棄の制度があるが、本件において相続人が相続放棄を行うことが認められない場合や、相続放棄による債務の免除の効果が認められない場合
    3. 緊急管轄が認められないと、相続人が債務の承継をせざるを得なくなること

    上記の①から③は全ての要件を満たす必要があるのではなく、①と②については、そのいずれかの要件を満たすことで足ります。被相続人の住所地の国において相続放棄の制度がないか、相続放棄をしても日本で相続放棄の効果が認められないような場合ということになります。そのような場合に、日本で相続放棄ができないと相続人に酷な結果となってしまうような場合に緊急管轄が認められることになります。

    被相続人が日本国内に住所や居所を有する外国人の場合

    被相続人(お亡くなりになった人)が日本国内に住所や居所を有する外国人の場合は、日本の家庭裁判所が相続放棄の管轄権を有することになります(家事事件手続法3条の11第1項)。このように相続放棄の申述書の受理に関する裁判管轄は被相続人(お亡くなりになった人)の住所や居所をもとに判断されますので、相続人(相続財産を受け取る人)が日本に住所を有するかどうかや、相続人が日本国籍を有するかどうかは関係ありません。一方で、被相続人が外国人の場合は、反致が成立する場合(この場合は日本法が準拠法となります)を除いて、被相続人の本国法が準拠法となりますので、相続放棄の実体法(相続放棄の期間や相続放棄の撤回の可能性などの問題)は相続人の本国法に従うことになります。相続人の本国法の内容については、家庭裁判所が調査することになりますが、相続放棄の申述受理の申立てを行う当事者にも説明を求められることがあります。なお、被相続人の本国法において相続放棄の制度がない場合には、日本でも相続放棄を行うことはできないことになります。反対に反致が認められる場合には、日本法が準拠法となりますので、日本法に基づき相続放棄の申述をすることができることになります。

    被相続人が日本国内に住所や居所を有しない外国人の場合

    被相続人(お亡くなりになった人)が日本国内に住所や居所を有しない外国人の場合は、日本の家庭裁判所は相続放棄の申述受理についての管轄を有しないことになります(家事事件手続法3条の11第1項)。従って、日本の家庭裁判所に相続放棄の申述受理の申立てを行うことはできません。このように相続放棄の申述書の受理に関する裁判管轄は被相続人(お亡くなりになった人)の住所や居所をもとに判断されますので、相続人(相続財産を受け取る人)が日本に住所を有するかどうかや、相続人が日本国籍を有するかどうかは関係ありません。

    相続放棄の熟慮期間

    相続放棄は、相続の開始を知った時から3か月の熟慮期間内に、家庭裁判所に対して相続放棄の申述書を提出することによって行われます。熟慮期間を経過した後の申述書については、裁判所が受理してくれないことになります。但し、熟慮期間の開始時である「相続の開始を知った時」とは、相続人が被相続人の死亡を知った時ということになりますので、海外に居住する相続人が、被相続人の死亡を知らなかったような場合は、3か月の熟慮期間の開始日も、被相続人の死亡を知った時まで延長されることになります。

    相続放棄の手続きを取らなかったことについて相当の理由がある場合

    相続人が、被相続人の死亡を知っていても、債務の額が資産を上回ることを知らず、相続放棄を行う必要がないと思っていたような場合は、3か月の期間の経過をもって相続放棄を一切認めないとすることは、相続人に対して酷な結果を招くことになります。そこで、相当な理由がある場合は、家庭裁判所に対して事情説明書を提出することで、3か月の熟慮期間を経過した後でも相続放棄が認められることがあります。相続人が海外に居住しているような場合、被相続人に関する十分な情報を有していない場合も考えられますので、事情説明書により相続放棄が認められる可能性も高いと言えます。熟慮期間については裁判所も緩やかに解釈してくれていますので、3か月の期間が経過した後でも相続放棄をあきらめる必要はありません。熟慮期間の経過後に行った相続放棄の申述が受理されるかどうかについては、専門家によるサポートを必要とします。熟慮期間経過後の相続放棄の申述を検討されている場合は、栗林総合法律事務所にご相談ください。

    相続放棄の申述書の提出先

    相続放棄の申述書の提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所になります。

    相続放棄の申述受理の申立てを行う際に必要となる書類の取得

    相続放棄の申述を行う際には、被相続人の住民票除票または戸籍の附票、申述人の戸籍謄本、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本(除籍謄本、改正原戸籍謄本)などを添付する必要があります。相続人の一部の者が外国籍である場合や、海外に住所を有する場合は、申述人の戸籍謄本を取得することができない場合もあります。申述人が結婚などによって外国籍を取得した場合は、最後の本籍地のある市町村長において除籍謄本を取得することができますので、除籍謄本を確認することで相続人と被相続人の関係を証明することができます。相続人の一部の者が外国籍の者であっても、その外国籍の者の本国が戸籍制度のある国の場合、その国の戸籍謄本とその翻訳文を添付することで相続人と被相続人の関係を証明することができます(相続人の国籍が大韓民国の場合は大韓民国の戸籍を入手できます)。相続人の本国において戸籍制度がない場合(アメリカ合衆国など)は、相続人の戸籍謄本は取得できませんので、出生証明書、結婚証明書、帰化証明書などで相続人と被相続人の関係を証明することになります。

    栗林総合法律事務所のサポート業務

    相続放棄の申述受理に関する栗林総合法律事務所のサービス内容は次の通りです。

    • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本の取得
    • 被相続人の除籍謄本の取得
    • 相続人の戸籍謄本の取得
    • 相続財産(不動産)の調査
    • 銀行預金の口座残高および取引履歴の取得(弁護士法23条照会)
    • 証券会社の証券口座の調査(弁護士法23条照会)
    • 外国法令の調査
    • 相続放棄の申述書の作成、提出