ハワイ州における遺産相続
目次
ハワイにある財産の遺産相続
ハワイに財産を残して日本人が死亡して相続が発生した場合には、相続人や被相続人が日本人で、日本に居住している場合であっても、相続人だけで自由に遺産の分割を行うことはできません。ご親族が日本で死亡し、その方の遺産相続をする過程で、死亡した方がハワイに銀行預金や不動産、その他の財産を有していたことが分かった場合には、プロベイト手続き(遺言執行者又は財産管理人の選任し、相続財産を管理・処分してもらう方法)を取ることが必要かどうかを確認することが必要になります。
また、ハワイの法律と日本の法律では、相続人の範囲や法定相続分に違いがあります。日本の法律とハワイの法律のいずれが適用になるかによって結論に違いが出てくることになります。
準拠法の決定
ハワイの遺産相続については、不動産(土地・建物)と動産、銀行預金、有価証券等について、どこの国の法律が適用になるかを検討する必要があります。これが準拠法の決定の問題です。
ドミサイルに基づく準拠法
日本の国際私法では、相続に関する準拠法は被相続人の本国法とするとされています(法の適用に関する通則法36条)。従って、日本人が死亡した場合の遺産相続については、日本法が適用になることになります。日本の法律というのは日本の民法のことであり、日本の国際私法に基づくと、相続人が誰になるか、相続分がどうなるか、相続放棄や遺留分について、日本の民法の規定が適用されることになります。
これに対し、ハワイの国際私法では、被相続人の住所(ドミサイル)に着目し、住所の存する国の法律が被相続人の財産の管理及び承継についての準拠法であり、かつ管轄権を有するというのが原則です。ドミサイル(domicile)とは居住の意思をもって定住している場所をいいます。アメリカ国籍の人でも日本に居住する意思で日本に居住している場合は日本にドミサイルがあることになります。また、日本に居住している日本人は、日本にドミサイルがあることになります。
従って、日本に居住する日本人や、日本に居住するアメリカ国籍の人については、ドミサイルは日本にありますので、日本の法律が適用になることになります。一方、ハワイに居住している日本人は、日本国籍であってもハワイにドミサイルがあるとされ、遺産相続についてはハワイ法が適用になる可能性があります。
相続分割主義
日本の国際私法では、被相続人の本国法が日本であれば、全ての相続財産に対して日本法が準拠法となります(相続の統一主義)。これに対して、ハワイの国際私法では、相続の分割主義が取られており、不動産(土地、建物、アパート、マンション)については、被相続人のドミサイルに関係なく、財産の所在地の法律が適用になります。その結果、日本人がハワイに不動産を所有していた場合、当該不動産の遺産相続については、ハワイの相続法が適用されることになります。
反対にハワイに住んでいるアメリカ人が日本で不動産を所有していた場合、日本にある不動産の遺産相続については、日本の相続法が適用になります。これに対し、動産や流動資産(預金、現金、株式、個人的所有物)については、個人が死亡したときに有していたドミサイル(domicile)の相続法が適用になります。日本に居住していた日本人が被相続人の場合、ドミサイルは日本にありますので、日本の相続法が適用になります。
その結果、日本に居住する日本人がハワイにマンションと銀行預金を残して死亡した場合、マンションについては、相続人の範囲や相続分についてはハワイの法律が適用になるのに対し、銀行預金については、相続人の範囲や相続分については日本法が適用になることになります。
ハワイのマンションに適用される準拠法
日本に居住する日本人が日本とハワイに財産を残して死亡した場合、日本の通則法によれば被相続人の本国法である日本の法律が全ての相続について適用されることになります。一方で、上記の通り、ハワイの国際私法では、ハワイに所在する不動産についてはハワイの法律が準拠法となるのに対し、動産や流動資産については被相続人のドミサイルがある地の法律が適用になります。
そこで、相続に関する準拠法の考え方が異なるために、結局どちらの法律が適用になるのかが問題となります。まず、ハワイに存在する不動産については、相続人がハワイに行って売却手続をしようと思ったとしても、その相続人が相続財産に対する管理処分権限を有することを証明することができませんので、最終的にハワイの裁判所にプロベイトの申立てを行って財産管理人を選任する必要が出てきます。そこでハワイの裁判所に財産管理についての申し立てを行う必要が出てきますが、この場合、ハワイの裁判所はハワイの国際私法を適用することになります。その結果、このマンションの遺産相続については、相続人が誰かという問題や、各相続人の法定相続分については、ハワイの法律によって決まることになります。
但し、相続人の全員が遺産分割協議書にサインして分割方法を定めている場合は、ハワイの裁判所も遺産分割協議書による相続を認めることになると思われます。その結果、相続人全員の間で遺産分割協議が成立している場合は、準拠法がハワイ州法になるか日本法になるかは大きな問題とはなりません。これに対し、相続人間で遺産相続について争いがある場合は、ハワイの裁判所としては、ハワイの法律を適用せざるを得ないことになると思われます。
ハワイの銀行預金に適用される準拠法
日本に居住する日本人がハワイの銀行に預金を残して死亡した場合、日本の通則法によれば被相続人の本国法である日本の法律が全ての相続について適用されることになります。一方、ハワイの国際私法では、ハワイに所在する動産や流動資産については被相続人のドミサイルがある地の法律が適用になります。日本に居住する日本人のドミサイルは日本になりますので、日本法が適用になることになります。
従って、日本の国際私法でも、ハワイの国際私法でも日本に居住する日本人の銀行預金の相続に関しては、日本法が準拠法となります。その結果、誰が相続人であるかという問題や、各法定相続人の相続分については、日本法(日本の民法)に従って決定されることになります。但し、プロベイト手続きの要否については、下記の通りです。
ハワイ州法による相続人と相続分
相続において遺言書が無い場合には、ハワイ州法に基づいて法定相続人が相続します。例えば、被相続人に配偶者と子供がいる場合に、その子供が全員配偶者との間の子供であり、かつ配偶者に被相続人以外との子供がいない場合には、100%配偶者が相続することになります。日本では、配偶者1人、子供1人の場合には、配偶者と子が50%ずつ相続しますが、ハワイではこの場合子は法定相続人にはなりません。
また、配偶者と親のみがいる場合(被相続人に子供がない場合)には、最初の200,000ドルと残りの3/4を配偶者が、残りを親が相続します。日本では、3分の2を配偶者が取得し、3分の1を親が取得することになりますので、ハワイの法律と異なる扱いとなります。被相続人の子供が全員配偶者との子供で、配偶者には前の夫との間の子供がいる場合には、最初の150,000ドルと残りの1/2を配偶者が、残りを被相続人の子供が相続します。被相続人に前の妻の者との間に子供がいる場合には、最初の100,000ドルと残りの1/2を配偶者が相続、残りを被相続人の子供が相続します。
プロベイト手続
不動産に対するプロベイト手続き
上記の通り、ハワイに所在する不動産の遺産相続についてはプロベイト手続きが必要となり、ハワイ州の法律が適用されることになります。
銀行預金に対するプロベイト手続き
被相続人が日本に在住する日本人の場合、ハワイに存在する動産や流動資産については、日本の国際私法によってもハワイの国際私法によっても、被相続人のドミサイルがある日本の法律が適用されることになります。しかし、ハワイ所在の動産や流動資産について日本法が準拠法となり、日本法に従って相続人や相続分が決定される場合であっても、財産の管理についてはハワイの手続きによることになります。結局はハワイ所在の動産や流動資産についてハワイのプロベイト手続きを行う必要が生じる場合があります。
相続の対象として銀行預金がある場合、ハワイの州法では、預金額が10万ドル(約1500万円)以上ある場合にはプロベイト手続が強制的に必要になるのに対し、預金額が10万ドル(約1500万円)以下の場合はプロベイトの手続が不要とされています。しかしいざ銀行預金を解約しようとすると、銀行からは財産管理人の選任決定書の写しを求められることがほとんどであり、日本ではそのような証明書を入手できないことから、ハワイの裁判所でのプロベイト手続をとらざるを得ないことになります。
被相続人が死亡してから少なくとも5年が経過している場合は、通常のプロベート手続より財産管理手続の一部を省略してハワイの裁判所で相続人の確定手続等を行うことができる場合があり、その場合は通常のプロベート手続より簡易な過程でプロベート手続が終了することもあります。いずれにしても、プロベイト手続は現地の弁護士に代理して行ってもらうことがほとんどで、期間としては1年から2年かかります。日本では戸籍謄本や公正証書遺言、遺産分割協議書などを準備すれば相続財産を移転することができることがほとんどですが、アメリカでのプロベイト手続とはこの点で大きく異なります。ハワイの銀行預金の解約を行う場合でも日本側で各種書類の準備を行う必要があります。この点は国際相続に慣れた弁護士でないと対応が難しいところがあります。もしご不明な点があれば栗林総合法律事務所にお問合せください。
プロベイトの申立て
ハワイのプロベイト手続は、被相続人に遺言がある場合と遺言がない場合で異なります。被相続人に遺言がある場合は、Probate(遺言検認手続き)という手続きにより、申立人が裁判所に対して遺言執行者の選任申立てを行い、これに対して裁判所が遺言執行者(executor)を選任する決定を行います。
遺言執行者を選任する決定をGrant of Probateと言います。被相続人に遺言がない場合は、財産管理手続きにより、申立人が裁判所に対して財産管理人を選任するよう申し立て、これに対して裁判所が財産管理人(administrator)を選任する決定を行います。財産管理人を選任する決定をGrant of Letters of administrationと言います。裁判所の決定であるGrant of ProbateとLetters of administrationの両方を合わせて、代理人選任決定(Grant of Representation)と呼ぶことがあります。この決定が出されることで、executor(遺言執行者)やadministrator(財産管理人)は相続財産の管理・処分についての正式の権限を有することになります。
財産管理人の選任申立て
プロベイト手続きおいてだれを財産管理人に選任するかは、裁判所が決定することになります。相続人が外国人である場合は、相続人は自ら現地の財産管理ができませんので、申立代理人弁護士を財産管理人に選任するよう申し立てることがほとんどで、実際にも申立てを行った弁護士自身が選任されるケースがほとんどです。
もし日本に遺言執行者がいるような場合は、ハワイ州の申立代理人弁護士と日本の遺言執行者が共同で財産管理人に選任されることもあります。複数の相続人間で遺産分割について争いがあるような場合は、誰が財産管理人になるかはその後の手続きの進行や財産の分配において重大な影響が生じる可能性があります。そこで、財産管理人の選任申立ての手続については、他の相続人などから異議を申し立てることができ、裁判所が最終的に誰を財産管理人にするかを決定することになります。
財産管理人の選任決定
プロベイト手続きの申立てに際しては、被相続人の死亡届出書、相続人の戸籍謄本、住民票、婚姻証明書、本人確認書類、遺産の概要などを裁判所に提出する必要があります。日本語で作成されている書類については英語に訳し、翻訳証明書を添付する必要があります。戸籍謄本等については、公証役場で認証を受け、アポスティーユを付けることが必要となります。裁判所は、申立人から提出された書類を確認し、被相続人の死亡、相続人と被相続人との関係、相続財産の内容、相続債務の有無などについて確認ができた段階で、Grant of Probate(遺言書がある場合)、Letters of Administration(遺言書がない場合)の決定を出します。
財産管理人の活動
Grant of Probate(遺言書がある場合)、Letters of Administration(遺言書がない場合)の決定が出された場合、財産管理人は、相続財産の調査を行い、財産一覧表を作成して裁判所に届出を行います。その後、銀行預金については解約をし、不動産については売却するなどの資産の換価処分を行います。また、同時に負債(相続債務)の調査を行います。実際には未払税金があるかどうかについて税務署に対する問い合わせを行ったり、公告を行い債権者がいれば債権の届出を行うよう促したりします。また、相続人が誰であるかについての調査も行います。
相続財産の分配
財産管理人は、財産の換価処分が完了した段階で、財産管理に関する報告書を作成し、財産の分配方法を定めた報告書を裁判所に提出します。裁判所が財産管理人から提案のあった分配方法を承認した場合は、財産管理人は、その報告書の記載に基づいて財産の分配を行います。
プロベイト手続きを回避する方法
ハワイのプロベイト手続は、相続人にとっては時間と費用を要する大変負担の大きな手続きとなります。そこで、ハワイに所在する不動産(マンションやコンドミニアム)のプロベイト手続きを回避するための4つの方法について説明します。第1が、ジョイントテナンシーによる方法です。第2が、リビングトラストを設定する方法です。第3が、TODDを作成し登記しておく方法です。第4が、法人名義で不動産を所有する方法です。
夫婦合有所有とジョイントテナンシー
ハワイ州における代表的な不動産の所有形態としては、単独所有(Tenancy of Severalty)、共同所有(Tenants of Common)、夫婦合有所有(Tenants by the Entirety)、合有所有(Joint Tenancy)があります。単独所有(Tenancy of Severaltyは、不動産を一人で所有すること、共同所有(Tenants of Common)は不動産を複数の個人または法人で所有する形態です。夫婦合有所有(Tenants by the Entirety)はハワイ州で婚姻届を題している夫婦が所有する形態で、一方が死亡すると自動的に残された配偶者に権利が移転します。合有所有(Joint Tenancy)は複数の所有者で全体の所有権を持つ形態で、一人が亡くなるとその分は残りの所有者に均等に移転します。
単独所有(Tenancy of Severalty)と共同所有(Tenants of Common)の場合には、所有権の相続については、日本の単独所有や共有の場合と同様になります。被相続人が、ハワイにおけるマンションを単独所有又は共同所有している場合は、その所有権や持分権の相続については、プロベイトの手続きによって行われることになります。ハワイ州で財産管理人の選任を行い、その財産管理人が裁判所の許可のもとに財産を売却し、又は相続人に相続させることになります。なお、ハワイ州の不動産の相続については、ハワイ州の法律が準拠法となりますが、相続人全員の同意がある場合は法定相続分と異なる相続割合での相続も可能となります。この場合、遺産分割や相続放棄の内容をハワイ州の裁判所に届け出る必要があります。
夫婦合有所有(Tenants by the Entirety)と合有所有(Joint Tenancy)の場合には、生存する合有者に死亡した人の有していた持分が当然に移転しますので、プロベイトの手続きは必要ありません。この場合、現地の弁護士に依頼して直ちに他の合有者(例えば夫が亡くなった場合は妻)への持ち分の移転登記を行うことができます。このように、夫婦合有所有(Tenants by the Entirety)と合有所有(Joint Tenancy)はプロベイト手続きを回避するための手法として多く用いられます。但し、夫婦合有所有(Tenants by the Entirety)、合有所有(Joint Tenancy)については税金について注意が必要です。不動産の取得時に夫が全部の資金を出しながら夫婦の合有とした場合に、日本の税務上、妻の取得した持分については夫から妻への贈与がなされたとみなされる可能性があります。また、夫が死亡して妻が夫の持ち分を取得した場合は、遺贈や死因贈与がなされたものとして、日本での相続税の対象となります。夫婦合有所有(Tenants by the Entirety)と合有所有(Joint Tenancy)の方法によって不動産を取得する場合は日本での税金についても注意が必要となります。
リビングトラスト
プロベイトを回避する方法として、ハワイ州のUniform Probate Codeに基づきリビングトラスト(living trust)を設定する方法があります。これは生前トラスト合意書という書類を作成してリビングトラストを設立し、相続対象の財産をトラストに移して(個人名義の財産をトラスト名義に変更する)管理する方法です。トラスト合意書には、トラストに移した財産を管理する資産管理人、死後に財産を受け取る受益者などを予め指定しておきます。設立者の死後、管理人はトラスト合意書の指示に基づいて受益者に分配することになります。トラストは遺言書と似たようなものですが、財産管理用の会社のようなもので、死亡時にアメリカ国内にある財産は個人の財産ではなくトラストの財産ということになりますので、プロベイトの対象財産ではないということになります。その結果、リビングトラスト(living Trust)がプロベイトの手続を回避する方法として利用されることになります。ハワイのリビングトラスト(living trust)には、取消可能なリビングトラスト(revocable living trust)と、取消不能なリビングトラスト(irrevocable living trust)があります。ハワイのリビングトラストについては、登録を行い、裁判所に提出する必要があります。プロベイトを回避する手段としては、取消可能リビングトラスト(Revocable Living Trust)が利用されます。
TODD(Transfer on Death Deed)
TODD(Transfer on Death Deed)とは、特殊な不動産譲与証書です。不動産の所有者が生前に証書(TODD)を作成し、ハワイ州の不動産登記所(Bureau of Conveyance)に登記しておくと、所有者が亡くなったときに、当該不動産の所有権が証書に記載された受取人に移転することになります。TODDを作成した不動産所有者は生前に何度でも取消しや撤回を行うことができます。TODDの登記がされている場合には、プロベイトの手続きなしに受取人に名義変更を行うことが可能ですので、プロベイト回避の手段として用いられます。TODDの作成・登記に要する費用は通常50万円程度です。上記の通り、ご主人が資金を提供しながら、夫婦名義のJoint Tenancyとする場合は、ご主人から奥様への贈与税の問題が生じるのに対し、TODDの場合は、ご主人が生存中は不動産の名義はご主人のままですので、奥様への贈与の問題は生じないことになります(遺産相続の際の相続税の問題は生じます)。
Small Estate Affidavit
ハワイの不動産の価格が10万ドル以下の場合は、Small Estate Affidavit(少額の遺産にかかる宣誓供述書)を作成することで正式なプロベイト手続きを回避することが出来ます。Small Estate Affidavitの作成方法については栗林総合法律事務所にお問い合わせください。
法人名義でのマンションの所有
ハワイのマンションを取得する場合に、日本やハワイに会社を設立し、会社名義でマンションを所有することが考えられます。この場合、被相続人が死亡しても、会社の所有権に変動は生じませんので、不動産についてのプロベイトの手続きは必要なくなります。但し、会社の株式をどのようにして承継するかについては別途検討が必要です。日本の会社の場合、日本の会社法に基づいて株式の承継手続きが行われます。ハワイの会社の場合も、ハワイの会社法に基づき、株式の承継を行うことが可能となります。
ハワイの財産に関する相続税の申告
日本における相続税の申告
日本では、相続人は相続が開始してから10カ月以内に、相続税(inheritance tax)の申告書を提出する必要があります。日本の法律によれば、被相続人の死亡時に、相続人は被相続人の財産を包括承継するのが原則で、相続税は相続人に対して課されるものです。被相続人がハワイにマンションや銀行預金を有していた場合、これらのマンションや銀行預金についても相続財産の一部として日本で相続税の申告を行うことが必要です。日本の相続人は無制限納税義務者となりますので、ハワイのマンションや銀行預金についても日本の相続税が課せられることになります。
日本における相続税の計算
日本人が死亡した場合は、日本にある財産とハワイにある財産を合算して相続税の申告を行います。相続税の計算方法も、日本の相続税の計算方法と異なりません。アメリカ人が死亡し、日本人がアメリカ人の遺産を相続する場合も、日本に居住する相続人(日本人)は、日本で相続税の申告が必要となります。この場合も相続税の計算方法については、日本人が亡くなった場合と同様になります。被相続人の相続財産を特定し、相続人の数によって基礎控除額を算出します。その後、日本の相続税法を適用した場合に課税対象部分に対して全体でいくらの相続税が課せられるのかを計算します。その後、個々の相続人の実際の相続分に応じて税金が決定されることになります。
アメリカの連邦遺産税
一方で、アメリカに所在する財産に対しては、連邦政府に対して納付する連邦遺産税と、州法に基づいて納付する州の遺産税の2種類の遺産税を納付する必要があります。日本の相続税が相続人に対して課されるのと異なり、アメリカの遺産税は、遺産に対して課されるものであるという点で、日本とアメリカの制度は異なります。
アメリカの連邦遺産税の対象
アメリカの連邦税については、被相続人が死亡した時に、被相続人や相続人が日本国籍であるかどうか、被相続人や相続人が日本に住所を有していたかどうかは関係ありません。アメリカ国内に所在する財産については相続人や被相続人の国籍や住所に関係なく遺産税の対象となります。不動産(家、アパート、コンドミニアム)や動産(車、家具、芸術品)などの有体物がアメリカ国内に物理的に存在する場合は、米国内の財産とみなされます。また、アメリカの金融機関に預けている銀行預金、アメリカの会社が発行した株式、アメリカの投資組合への投資口などの有価証券については、連邦遺産税の目的上はアメリカにある財産とみなされ、課税対象となります。これに対し、州の遺産税が課せられるかどうかは州ごとに異なります。連邦遺産税の申告期限は9カ月とされています。
連邦遺産税の控除
アメリカ人の場合には、申告期限までにきちんと申告を行えば、連邦遺産税は遺産額が1361万ドルになるまでになるまで控除されます(2024年度の場合)。一方、外国人に対する連邦遺産税は原則として、アメリカにある遺産の額が6万ドルまで(税額でいうと1万3000ドルまで)しか控除されないこととなりますので、アメリカ国内にある財産の時価(及び生存中に贈与を受けた財産の額)が6万ドルを超える場合には、6万ドルを超える部分についておよそ26~40%の連邦遺産税が課せられることになっています。従って、アメリカにおける相続税の額は極めて高額になる可能性があります。また、州の遺産税も課税されますので、合計の税額は極めて高く(財産の時価の50%近くに)なります。
アメリカ合衆国の相続税条約
上記のように外国人がアメリカ国内に財産を残して死亡した場合、極めて高額の連邦遺産税や州の遺産税が課税される可能性があります。これに対して、アメリカ合衆国との間で相続税条約(estate tax treaty)が締結されている国の国民については、アメリカ人に適用される税額控除額に、被相続人が世界に有する全遺産額のうちアメリカに所在の遺産額が占める割合を乗じて算定した税額控除を受けることができ、その結果、連邦遺産税から極めて大きな税額控除が受けられる可能性があります。
但し、州の税金については特別の控除はありません。現在アメリカ合衆国は、17か国との間において相続税条約(estate tax treaties)を締結しています。日本もアメリカとの間で日米譲渡税条約(Japan-United States: Transfer Tax Agreement (1954))を締結しており、同条約の第4条において、米国が、財産が米国内にあることを理由として、その財産に対して相続税を課税しようとする場合に、一定額の相続税額を控除することを米国に求める規定を設けています。
本条の目的は、アメリカ人であれば相続税額の控除を受けられる場合には、日本人もアメリカ人に適用される控除額をベースとして、遺産全体の米国に所在する遺産の割合に応じて控除を受けられることとし、もって相続税に関するアメリカ人と日本人との間における内外の著しい不均衡の是正及び二重課税の排除を図ることにあります。したがって、日本人については相続税条約に基づく申告を行うことで、連邦遺産税について、アメリカに6万ドルよりも遺産があっても、アメリカ人に適用される控除額をベースとしてアメリカに所在する遺産の割合に応じて算出された控除を受けられることになります。一方アメリカでの申告を怠った場合は、相続税条約に基づくメリットを受けられなくなる可能性がありますので、注意が必要です。
連邦遺産税の申告
アメリカの市民権やアメリカにおける住所(ドミサイル)を有していない外国人がアメリカに相続財産を残して死亡した場合、死亡の日から9か月以内に、IRS(内国歳入庁)に対して、US Federal Estate Tax Return(連邦遺産税申告書)を提出することが必要となります。連邦税の申告については、 Form 706-NAというフォームに基づいて作成されることになります。なお、アメリカにおける申告期間については、Form4768という申請書を提出することで6か月間延長することができます。
日本人が日米租税条約の適用を受けて、アメリカ国内での連邦遺産税の控除を受けるためには、米国市民ではなく米国に常居所を有していない人の米国内の遺産に対応する相続税(及び世代間財産移転税)の申告書であるフォーム706-NA、すなわち上記遺産に関連し、米国連邦税法6114条、7701条(b)に規定された租税条約に基づく免税の特典を享受する旨の開示報告書を、IRSの規定の書式にしたがって提出することになります。その際、故人の財産状況を示す目的で、日本の相続税申告書などを添付資料として提出する必要があります。栗林総合法律事務所では、このような申告業務のサポートも行っています。
ハワイ州の遺産税
ハワイ州には贈与税や相続税はありませんが、被相続人の遺産に対して遺産税がかかります。2012年1月25日以降に亡くなった方には、すべての居住者の課税対象不動産およびすべての非居住者のハワイに所在する課税対象不動産の譲渡に、遺産税および世代間スキップ譲渡税が課されます。ハワイ州の相続税は累進的であり、相続資産の価値が上がるにつれて、一連の増加する税率が適用されます。遺産税については、549万ドル(1ドル150円で計算すると日本円で8億2350万円)の基礎控除が認められます。遺産の額が549万ドルを超える場合は、549万ドルを超えた部分に対してハワイ州の遺産税が課せられることになります。遺産の額が549万ドルに満たない場合はハワイ州の遺産税は課せられません。
相続財産の中に不動産が含まれる場合には、プロベイト手続の途中で遺言執行者や財産管理人が不動産を売却の手続がなされたり、プロベイト手続が終わった段階で不動産の売却が行われることになります。不動産を売却した場合には、不動産税が加算されます。10,000,000ドル以上と評価された不動産に対するハワイの相続税率は現在20%で、アメリカでもっとも高い税率の州になっています。
世界各国の遺産相続手続のコラムのご紹介
当事務所で扱ったハワイ以外の世界各国の遺産相続手続きについて書かれたコラムをご紹介いたします。下記のコラムでは各国の遺産相続手続きについて詳しく書いていますのでタイトルをクリックしてぜひご参照ください。
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