スイスにおける遺産相続
目次
スイスの銀行預金の相続
インフレーションに対するリスクヘッジから、資産の国際的分散が進められています。
その結果、日本人の遺産の中に、UBS銀行やクレディ・スイス銀行の銀行預金が含まれている場合も多くなっています。
相続財産の中にスイスの銀行預金が含まれている場合、当該預金をどのようにして解約し、日本に送金してくるかが問題となります。
日本の国際私法による準拠法の決定
遺産が世界に分散して存在する場合の相続手続きは、国際相続の分野となります。
そこで、海外に所在する遺産について、だれが、どのような割合で財産を相続するかについては、日本の国際私法により判断することになります。
日本の国際私法である「法の適用に関する通則法」36条では、「相続は、被相続人の本国法による」と定められています。
その結果、日本国籍の方がお亡くなりになった場合は、お亡くなりになった方が日本に住んでいたか、海外に住んでいたかにかかわらず、本国法である日本法が適用になることになります。
したがって、相続人の範囲や相続分の問題は日本の民法に従って決定されることになります。相続財産が動産であるか不動産であるかにかかわりません(相続の統一主義)。
スイスの国際私法による準拠法の決定
スイス国内に所在する財産の相続手続きに関しては、スイスの国際私法についても検討する必要があります。
スイスの国際私法では、外国人の遺産相続に関しては、亡くなった外国人が最後に居住の意思をもって住んでいた場所(ドミサイル)の法が準拠法となるとされています。
したがって、日本人がお亡くなりになった時点で日本の住所に居住していた場合、日本が、最後にドミサイルがあった国と言うことになりますので、日本法が準拠法となります。
但し、スイスに所在する不動産については、スイス法が適用になります。
日本法による法定相続分
日本の民法では、配偶者と子供2人がいる場合、配偶者の法定相続分は2分の1となり、それぞれの子供の法定相続分は4分の1ずつということになります。
配偶者が既に死亡しており、子供2人のみが法定相続人となる場合、それぞれの子供は2分の1ずつの法定相続分を有することになります。
日本の民法では、包括承継主義が取られていますので、相続開始と同時に各相続人は法定相続分を包括的に取得することになります。
アメリカやイギリスなど、管理清算主義が取られる国ではプロベイト手続きが行われますが、日本ではこのような手続きは必要ありません。
スイスにおける銀行預金の解約請求
スイスも大陸法系に属するcivil lawの国ですので、遺産相続手続きについてプロベイト手続きは必要とされません。
そこで、スイスの銀行預金の解約を行う場合も、スイスの裁判所によるプロベイト手続きをとる必要はなく、法定相続人はスイスの金融機関に対して直接、銀行預金の解約又は相続人名義への名義変更手続きを請求することができます。
銀行預金の解約に際して必要とされる書類
日本の相続人がスイスの銀行に対して銀行預金の解約や名義変更を請求する場合は、銀行口座の名義人について相続が開始したことと、及び請求者が相続人として銀行預金の解約を請求する正当な権限を有していることを証明する必要があります。
被相続人について相続が開始したことについては、相続人の死亡証明書や除籍謄本によって証明することが可能です。
実際には、死亡証明書や除籍謄本を入手し、その翻訳文(英文)を添付して提出することになります。
銀行預金の解約請求を行う者が相続人として正当な権限を有することについては、戸籍謄本や遺産分割協議書によって証明することになります。
また、スイスの銀行は日本の相続法について分かりませんので、ケースによっては日本の弁護士から日本法についての意見書の提出を求められることもあります。被相続人について遺言書があり、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が銀行預金の解約を行います。
遺言執行者は遺言書の翻訳文により、自分が正当な権限を有することを証明することになります。
Certificate of inheritance
スイスの銀行は顧客から預かっている銀行預金について善管注意義務を負っていますので、間違った人に対して預金の払戻をした場合、正当な権利者から損害賠償請求をされる可能性があります。
そこで、銀行預金の払い戻し請求に対しては、正当な権限を有することの証明書を提出することが求められる可能性があります。イギリスやアメリカの場合、プロベイト手続きが取られますので、本国の裁判所が出した決定書(Grant of ProbateやLetter of administration)がありますので、これを提出することで遺言執行者であるexecutorや、遺言がない場合の財産管理人であるadministratorが、裁判所によって選任された正当な権利を有する者であることについての証明を行うことが可能です。
これに対し日本では、管理清算主義が取られていませんので、イギリスやアメリカのような裁判所の決定書(Grant of ProbateやLetter of administration)を取得することができません。
但し、日本の民法は比較的明瞭ですので、ほとんどのケースでは、裁判所の決定書(Grant of ProbateやLetter of administration)の提示を行わない場合であっても、銀行預金の解約に応じてもらえると思われます。どうしても難しい場合には、金融機関と協議しながら、日本の弁護士の意見書を提出する方法を検討するのが適切と思われます。
なお、スイスには、スイス当局によるCertificate of Inheritanceという制度があります。
これは、相続が発生していることや相続人がだれであるかについてスイスの当局が発行する証明書です。
ベルン州とジュネーヴ州では公証人が発行します。チューリッヒ州とアールガウ州では裁判所が発行します。
そのほかの州(例えばバーゼルシティ)についてはそのほかの公的機関が発行することになります。
しかし、スイスの公的機関も日本の法定相続人がだれであるかを知ることは難しいですので、日本人についてcertificate of authorityが発行されるかどうかは判明しません。
日本における相続税の申告
日本の相続税法上は、相続により財産を取得した者(相続人)は、全世界の相続財産について相続税を支払う必要があります(無制限納税義務者)。
したがって、日本の相続人は、被相続人が有していた日本国内の財産と海外の財産(スイスの銀行預金を含む)の全部について申告を行い、世界中の全ての資産を合算した金額について相続税を支払う必要があります。
スイスにおける相続税
スイスでは、連邦レベルでの相続税はありませんが、州のレベルにおいては相続税が課されることになります。
そこで、日本に居住する日本人が死亡した場合でも、スイスに資産を有していた場合、スイス国内にある相続財産についてスイスの相続税が課される可能性があります。
但し、配偶者とお子様が法定相続人のような場合には、免税となる場合もあります。スイスにおける相続税の申告の要否については、その都度ご確認いただく必要があります。
当事務所が提供できるサービス
栗林総合法律事務所は、国際相続を専門とする法律事務所です。栗林総合法律事務所では、スイスに遺産がある国際相続において、現地の弁護士(ソリシター)や税理士の紹介、日本における相続財産の調査、法定相続人の調査及び法定相続人に関する法律意見書(Legal Opinion)の作成、委任状(Power of Attorney)の作成、戸籍謄本、除籍謄本などの取得・翻訳、アポスティーユの取得(認証手続)などのサービスを提供しています。
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