フィリピンにおける遺産相続
目次
はじめに
ご家族がフィリピンに銀行預金や不動産等の財産を残されたまま亡くなられた場合、残されたご家族としては、フィリピンにおける財産についてどのように相続手続を進めていけばよいのかお困りになられると思います。
そこで、本稿では、フィリピンにおける相続手続の進め方や、フィリピンの法律に基づく相続分と相続人の範囲、フィリピンの財産を相続した場合の相続税などについて解説いたします。
フィリピンでの相続手続における準拠法(適用される法律)
フィリピンの国際私法
国際的要素を有するフィリピンの遺産相続において、相続人がだれであるかの問題や、各相続人の相続分がどれだけあるかを判断するためには、これらの問題をどこの国の法律に基づいて判断すべきかという準拠法の問題が生じてきます。
フィリピンにある遺産の相続については、フィリピンの裁判所が管轄権を有することになりますが、フィリピンの裁判所は、フィリピンの国際私法に基づいて準拠法を定めることになります。
フィリピンの国際私法では、相続財産の種類に関係なく、被相続人(亡くなった方)の本国法が適用になるとされています。
その結果、被相続人(亡くなった方)が日本人の場合には、日本法が準拠法となり、相続人の範囲や各相続人の相続分の問題については、日本法が適用されることになります。
一方、被相続人(亡くなった方)がフィリピン人の場合は、相続人の範囲や各相続人の相続分の問題については、フィリッピンの法律(フィリピン民法)が適用されることになります。
日本法に基づく相続分と相続人の範囲
上記の通り、フィリピンの国際私法は相続に関して本国法主義を掲げていますので、被相続人(お亡くなりになった方)の国籍が日本であった場合、日本法に基づいて相続人の範囲と相続分が定められることになります。
日本の民法では、相続分と相続人の範囲について次のように定められています。
- 被相続人の配偶者は、常に相続人となります(890条)。
- 被相続人の子は、相続人となります(887条1項)。
- 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となります(889条1項)。
- 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者が先になる。
- 被相続人の兄弟姉妹
- 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによります(900条柱書)。
- 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とされます。
- 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とされます。
- 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とされます。
- 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとされます。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とされます。
- 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができます(902条1項本文)。
- 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができます(907条1項)。
フィリピン法による相続分と相続人の範囲
フィリピンの国際私法は相続に関して本国法主義を掲げていますので、被相続人(お亡くなりになった方)がフィリピン国籍の場合、相続財産の種類に関係なく、相続人の範囲や相続分については、被相続人の本国法(フィリピンの法律)が適用されることになります。
人的不統一国
フィリピンでは、相続に関する法律として、「フィリピン民法」と「ムスリム身分法」という異なる法律が存在しています。
このように人種や信仰する宗教の違いに応じて、適用される法律が区別される国のことを人的不統一国といいます。
フィリピンは人的不統一国ですので、被相続人(お亡くなりになった方)がイスラム教徒である場合には、通常、当事者に最も密接な関係がある法としてムスリム身分法が適用され、イスラム教徒以外である場合にはフィリピン民法が適用されることになります。
被相続人の国籍 | 被相続人の宗教 | 準拠法 |
---|---|---|
フィリピン | イスラム教徒以外 | フィリピン民法 |
フィリピン | イスラム教徒 | ムスリム身分法 |
日本 | 宗教・宗派を問わない | 日本法 |
フィリピン民法に基づく相続分と相続人の範囲
フィリピン民法(以下「比民」といいます)の第3章以下では、遺言が存在しない場合における法定相続人および各相続人の法定相続分について次のように定められています。
下記のまとめにおいて、○は生存、✕は不存在またはすでに亡くなられていることを意味しています。なお、嫡出子とは婚姻関係にある父母から生まれた者を意味し、非嫡出子とは婚姻関係にない父母から生まれた者を意味します。
被相続人が嫡出子である場合
子供(嫡出子)○・配偶者✕・子供(非嫡出子)✕
子供(嫡出子)が全部の財産を相続します(比民978条)。子供(嫡出子)が複数いる場合は、均等な割合で相続することになります。
子供(嫡出子)✕・直系卑属(嫡出子)○・配偶者✕・子供(非嫡出子)✕
被相続人の子供(嫡出子)が被相続人よりも先に亡くなっており、被相続人の子供(嫡出子)に直系卑属(嫡出子)がいる場合には、被相続人の子供(嫡出子)の直系卑属(嫡出子)が全部の財産を相続します。ただし、被相続人の子供(嫡出子)に、嫡出子と非嫡出子の子供がいる場合、子供(嫡出子)が全部の財産を相続し、子供(非嫡出子)は相続権を有しません(比民992条)。なお、直系卑属とは、子・孫など自分より下の世代で、直系の親族のことをいいます。直系の親族ですので、兄弟・姉妹、甥・姪などは含まれません。
被相続人の子供(嫡出子)の直系卑属(嫡出子)が複数いる場合は、被相続人の子供(嫡出子)の相続分を均等な割合で相続することになります。すなわち、被相続人の子供(嫡出子)が3名(A・B・C)存在していて、そのうちCが被相続人よりも先に亡くなっており、Cの子供(嫡出子)が2名(D・E)存在している場合の各相続分は、以下のとおりとなります(比民980条~982条、979条)。
相続人 | 法定相続分 | 計算方法 |
---|---|---|
A・B | 1/3ずつ | A・B・Cの3等分 |
D・E | 1/6ずつ | C持分(1/3)の2等分 |
子供(嫡出子)○・配偶者○・子供(非嫡出子)✕
配偶者の相続分は、子供(嫡出子)の各相続分と同じ割合になります。したがって、配偶者の相続分は、子供(嫡出子)の人数によって変化することになります。すなわち、子供(嫡出子)が2名いる場合、配偶者の相続分は1/3となり、子供(嫡出子)が3名いる場合、配偶者の相続分は1/4となります(比民983条、895条)。
子供(嫡出子)○・配偶者✕・子供(非嫡出子)○
子供(非嫡出子)の相続分は、子供(嫡出子)の1/2となります。したがって、嫡出子と非嫡出子が1名ずつ存在する場合、子供(嫡出子)の相続分は2/3、子供(非嫡出子)の相続分は1/3となります(比民983条、895条)。
子供(嫡出子)○・配偶者○・子供(非嫡出子)○
上記③④のとおり、子供(非嫡出子)の相続分は子供(嫡出子)の1/2となり、配偶者の相続分は子供(嫡出子)の各相続分と同じ割合になります。したがって、配偶者のほかに、嫡出子と非嫡出子が2人ずつ存在する場合の各相続分は、以下のとおりとなります。
相続人 | 法定相続分 |
---|---|
配偶者 | 1/4 |
子供(嫡出子)2名 | 各1/4 |
子供(非嫡出子)2名 | 各1/8 |
直系卑属(嫡出子)✕・親○・配偶者✕・子供(非嫡出子)✕
両親ともに生存している場合は1/2ずつ相続し、両親の一方のみが生存している場合には生存する親が全部の財産を相続することになります(比民986条、987条)。
直系卑属(嫡出子)✕・親✕・直系尊属○・配偶者✕・子供(非嫡出子)✕
被相続人の両親が被相続人よりも先に亡くなっており、被相続人の直系尊属が生存している場合には、被相続人の直系尊属が全部の財産を相続します。直系尊属が複数いる場合は、均等な割合で相続することになります。なお、直系尊属とは、父母・祖父母など自分より上の世代で、血のつながった直系の親族のことをいいます。
直系卑属(嫡出子)✕・親○・配偶者○・子供(非嫡出子)✕
配偶者の相続分は、他の相続人の人数に関係なく、常に被相続人の財産の1/2になります(比民997条)。したがって、両親ともに生存している場合、配偶者の相続分は1/2、両親の相続分は各1/4となります。
直系卑属(嫡出子)✕・親○・配偶者○・子供(非嫡出子)○
親の相続分は1/2、配偶者の相続分は1/4、子供(非嫡出子)の相続分は1/4となります(比民1000条)。
直系卑属(嫡出子)✕・直系尊属✕・配偶者✕・子供(非嫡出子)○
被相続人の子供(嫡出子)、子供(嫡出子)の直系卑属(嫡出子)、両親、直系尊属、配偶者がいずれも生存していない場合、被相続人の子供(非嫡出子)が全部の財産を相続します(比民988条)。子供(非嫡出子)が複数いる場合は、均等な割合で相続することになります(比民980条、982条)。被相続人の子供(非嫡出子)が被相続人よりも先に亡くなっており、被相続人の子供(非嫡出子)の直系卑属(非嫡出子)が生存している場合には、被相続人の子供(非嫡出子)の直系尊属(非嫡出子)が全部の財産を相続します。
直系卑属(嫡出子)✕・直系尊属✕・配偶者○・子供(非嫡出子)○
配偶者が1/2を相続し、被相続人の子供(非嫡出子)が残りの1/2を均等な割合で相続することになります(比民1001条)。
直系卑属(嫡出子・非嫡出子)✕・直系尊属✕・配偶者○・兄弟姉妹甥姪×
配偶者が全部の財産を相続します(比民995条)。
直系卑属(嫡出子・非嫡出子)✕・直系尊属✕・配偶者○・兄弟姉妹甥姪○
配偶者が1/2を相続し、残りの1/2を兄弟姉妹・甥姪が相続することになります(比民1001条)。
直系卑属(嫡出子・非嫡出子)✕・直系尊属✕・配偶者✕・5親等内の傍系親族○
生存している5親等内の傍系親族が、被相続人の財産を相続します。傍系親族とは、血のつながりはある一方で直系ではない親族のことをいいます。具体的には、兄弟姉妹、叔父・叔母、甥・姪、従兄弟姉妹などが傍系親族に当たります。
直系卑属(嫡出子・非嫡出子)✕・直系尊属✕・配偶者✕・5親等内の傍系親族✕
5親等内の傍系親族も生存していない場合、被相続人の財産は国に帰属することになります。
被相続人が非嫡出子である場合
第1順位の相続人は、被相続人の子供(嫡出子)及びその直系卑属(嫡出子)になります。したがって、上記①~⑤の場合における相続人および相続分については、被相続人が非嫡出子の場合も同様となります(比民979条)。
被相続人が非嫡出子の場合、被相続人と嫡出関係にある両親又は直系尊属は存在しませんので、第2順位の相続人は、被相続人の両親ではなく、被相続人の子供(非嫡出子)及びその直系卑属となります(比民980条以下)。
第3順位の相続人は、被相続人と嫡出関係にない両親になります(比民993条)。
第4順位の相続人は、配偶者になります。ただし、兄弟姉妹、甥、姪(非嫡出子に限る)も生存している場合には、配偶者が1/2を相続し、残りの1/2を兄弟姉妹、甥、姪が相続することになります(比民994条)。
第5順位の相続人は、兄弟姉妹、甥、姪となると解されています。
第1~5順位の相続人が存在しない場合、被相続人の財産は国に帰属することになります(比民1011条)。
ムスリム身分法に基づく相続分と相続人の範囲
被相続人の国籍がフィリピンであり、かつ、被相続人がイスラム教徒である場合には、通常、ムスリム身分法に基づいて相続人の範囲と相続分が定められることになります。
イスラム教徒については、ムスリム身分法の中からさらに、被相続人や被相続人の親族が信仰してきた学派ごとの慣習法が適用されることになります。
イスラム教には、スンニ派とシーア派が存在しており、スンニ派にはさらに4大学派(ハナフィー学派、シャーフィー学派、マーリク学派、ハンバル学派)が存在しています。スンニ派のハナフィー学派では、相続分と相続人の範囲について次のように定められています。
第1順位の相続人(主たる相続人)としては、①割当相続人、②アサバ、③非アバサが定められています。
①割当相続人とは、コーラン(イスラム教の聖典)において一定の相続分が規定されている相続人のことをいいます。具体的には、以下のとおり規定されています。
相続人 | 相続分 |
---|---|
夫(常に相続権を有する) | 1/4 |
妻(常に相続権を有する) | 1/8 |
娘(常に相続権を有する) | 1/2(2人以上のときは2/3) |
父・母(常に相続権を有する) | 1/6 |
息子の娘 | 1/2(2人以上のときは2/3) |
祖父・祖母 | 1/6 |
全血姉妹 | 1/2(2人以上のときは2/3) |
父方の半血姉妹 | 1/2(2人以上のときは2/3) |
母方の半血姉妹・半血兄弟 | 1/6(2人以上のときは1/3) |
割当相続人(上記の相続人)に含まれていない「息子」・「息子の息子」については、②アサバに分類されています。また、同じく割当相続人含まれていない「娘の娘」・「娘の息子」については、③非アバサに分類されています。
②アサバとは、コーランに相続分が規定されていない父方からなる相続人のことをいいます。アサバは、割当相続人が遺産を受け取った後の残余財産に対して権利を有するとされています。③非アバサとは、上記の①・②に属さない親族からなる相続人のことをいいます。
第2順位の相続人(次順位の相続人)は、第1順位の相続人(主たる相続人)がいない場合に、相続権を有することになります。次順位の相続人としては、④契約による相続人(奴隷を解放した者は奴隷だった者の遺産の相続権を取得します)、⑤承認された血族男子(被相続人によって承認されて親族とされた男子)、⑥国(国庫)が定められています。
フィリピンにおける相続手続
フィリピン国内にある遺産の相続手続きについては、被相続人(お亡くなりになった方)の遺言がある場合と遺言がない場合で異なります。
遺言がある場合(testamentary)は、プロベイト手続(遺言検認手続)という裁判所を通じた手続きを行う必要があります。
日本でも遺言書がある場合は、家庭裁判所で遺言書の検認手続きを行いますが、フィリピンの遺言検認手続きは、管理清算主義における遺産の管理のことを言いますので、アメリカやイギリスのプロベイト手続きと同じく、遺言執行者や裁判所が認めた財産管理人が遺産を管理し、債務の弁済を行った残りを相続人に分配することになります。
遺言がない場合(intestate)で、債務が存在せず、相続人全員の間で遺産分割協議が成立した場合は、裁判所の関与を要せずに、遺産分割協議のみで財産の分割が可能となります。
一方、遺言書がない場合(intestate)で、相続債務が存在する場合や遺産分割協議ができない場合は、裁判所に申し立てをして遺産の管理人を選任してもらい、管理清算手続きを行って遺産の分配がなされることになります。
遺言書がある場合
プロベイト手続
ご家族が遺言を残して亡くなり、その遺言がフィリピンの法律上有効である場合には、被相続人の最後の住所地を管轄する地域裁判所(Regional Trial Courts)に対してプロベイト手続(遺言検認手続)を申し立てる必要があります。
遺言書の中で遺言執行者が定められている場合には、原則として、その遺言執行者がプロベイト手続の申立てを行います。一方で、遺言書の中で遺言執行者が定められていない場合や遺言執行者が受任を拒否した場合には、相続人がプロベイト手続の申立てを行う必要があります。
日本に居住する相続人がプロベイト手続の申立て手続を行うことは困難ですので、通常は、フィリピンの弁護士を代理人に選任し、その弁護士にプロベイト手続の申立てを行ってもらうことになります。
プロベイト手続の申立てが行われた場合、フィリピンの裁判所は、プロベイト手続の申立て手続きを行ったフィリピンの弁護士を単独でフィリピンに所在する財産の遺言執行者に選任するか、又はフィリピンの弁護士と日本の遺言執行者を共同でフィリピンに所在する財産の遺言執行者に選任することになります。
その後、裁判所の監督下において行われる清算手続を経て、残った財産のみが相続人や受遺者に分配されることになります。
この裁判所の監督下で行われる清算手続をプロベイト手続といいます。
日本民法に定められた遺言の方式により作成された遺言の効力
フィリピンで遺言に基づくプロベイト手続きを行うためには、有効な遺言が作成されていることが前提となります。
フィリピンでは、日本に居住する日本人が、日本の法律に従って作成した遺言については、フィリピンでも方式について有効な遺言であると扱われることになります。同様に、日本に居住するフィリピン人が、居住地である日本の法律に従って遺言書を作成した場合も、フィリピンでは方式について有効な遺言であると扱われることになります。
フィリピン民法に定められた遺言の方式により作成された遺言の効力
遺言書の作成については、日本法で定めた方式に従って作成する場合だけでなく、フィリピンの法律で定められた方式により作成された遺言も有効となります。
フィリピンでは、自筆証書遺言(Holographic Will)と、公正証書遺言(Notarial Will)の2種類の遺言の作成方法があり、各遺言の方式要件については、以下のとおり定められていますので、フィリピンの方式により遺言を作成する場合は下記の要件を満たすことが必要となります。
自筆証書遺言の要件は、以下のとおり定められています。
- 遺言の全体が遺言者の自筆によって作成されていること
- 遺言者本人の言語又は方言でなされていること
- 書面によってなされていること
- 遺言の日付が記載されていること
- 遺言者による署名がなされていること
公正証書遺言の要件は、以下のとおり定められています(フィリビン民法804条~806条)。
- 遺言者本人の言語又は方言でなされていること
- 書面によってなされていること
- 遺言者及び証人が公証人の面前で認証を受けていること
- 証書の各頁に関係者が署名していること
- Ⓐ・Ⓑのいずれかの要件を満たすこと
- Ⓐ 証書の最後に本人が署名していること
- Ⓑ 遺言者本人が表明した遺言内容に対して、本人以外の数名が署名を代筆し、三名以上の証人が本人の面前で署名していること
遺言書がない場合
被相続人が遺言書を残さずに亡くなった場合、又は、遺言書は存在するものの有効な遺言書ではない場合には、遺産分割協議手続(裁判所外での相続手続)、又は、裁判所による遺産管理手続によって相続手続を行うことになります。
遺産分割協議手続(裁判所外での相続手続)
有効な遺言書が存在しない場合には、以下の要件を満たす場合に限り、裁判所外において遺産分割手続を行うことができます。
以下の要件を満たし、相続人間での遺産分割協議ができた場合には、裁判所に対する財産管理人の選任申し立て手続きは必要ないことになりますので、費用と時間を大幅に節約することができることになります。
- 有効な遺言書が存在しないこと
- 被相続人に債務が存在しないこと(債務全額が支払われている場合を含む。)
- 相続人全員が成人であること(未成年の相続人が成人の法定代理人によって代理されている場合を含む。)
- 相続財産の分け方について全ての相続人が合意したこと
裁判所による遺産管理手続
遺産分割協議手続によって相続手続を行うことができなかった場合、法定相続人は、フィリピンの裁判所に対して、財産管理人の選任の申立てを行う必要があります。
裁判所が財産管理人の選任決定を出すと、その財産管理人はフィリピンに所在する相続財産についての管理処分権限を有することになります。
裁判所による選任決定後、財産管理人は、銀行預金を解約し、不動産を処分し、税金その他の債務を支払った上で、残りの財産を相続人に分配することができます。
フィリピンに所在する不動産の相続
フィリピンでは、外国人はフィリピンの土地を所有することはできないとされていますが、相続の場合には、例外的に、法定相続分の範囲内で相続する場合に限り、外国人もフィリピンの土地を所有することができるとされています。
例えば、日本人のご主人が亡くなり、ご主人の所有していた土地を日本人の奥様とお子様2名が相続する場合、相続に関する準拠法は日本法になりますので、奥様が2分の1を相続し、お子様がそれぞれ4分の1を相続することになります。
従って、この法定相続分に従って相続する限りにおいて日本人の奥様やお子様がフィリピンの不動産を所有することができることになります。なお、外国人の所有規制は土地に関するものですので、外国人であっても、土地の上に建てられている建物を相続することは可能です。
フィリピンでの相続において必要となる書類
フィリピンでの相続手続においては、通常、下記の書類を用意する必要がありますが、場合によっては更に書類が必要となる可能性があります。
- 死亡証明書(Death Certificate)
- 婚姻証明書(Marriage Certificate)
- 出生証明書(Birth Certificate)
- 遺言書(Original Will of the deceased)
- 被相続人の資産に関する書類(Bank Account Statement, Shares Statement, etc.)
- 被相続人の債務についての書類
- 宣誓供述書(相続人の範囲等に関する弁護士の法律意見書)(Affidavit)
日本の当局または機関が作成した書類については、アポスティーユを取得する必要があります。
アポスティーユとは、外務省による証明のことをいい、当該公文書が日本の官公署や自治体等によって発行された書類であることを証明することができます。
また、個人・民間団体が作成した書類については、日本の公証役場で認証を受け、外務省で証明書を取得し、駐日フィリピン大使館で認証を受ける必要があります。
さらに、日本語で作成されている書類については、日本において宣誓の上で翻訳を行うか、又は、フィリピンの公認翻訳者によって翻訳を行う必要がある場合もあります。
フィリピンの相続税
フィリピンには、相続税(Inheritance Tax)はありませんが、被相続人の財産には6%の遺産税(Estate Tax)が課せられます。
日本では、遺産取得税方式(各相続人に対し、相続した財産の額に応じて課税する方法)が採用されていますが、フィリピンでは、遺産税方式(相続人の数や相続割合などに関係なく、被相続人の財産に一括して課税する方法)が採用されています。
遺産税方式の場合、納税義務者は被相続人となりますので、相続人は、被相続人の財産から遺産税等を差し引いた残りの財産を相続することになります。
フィリピンの財産を相続した場合の日本における相続税
被相続人と相続人のどちらかが日本に居住している場合
被相続人と相続人のどちらかが日本に居住している場合、つまり、亡くなった親がフィリピンに居住していて子供は日本に居住している場合や、亡くなった親が日本に居住していて子供はフィリピンに居住している場合などには、フィリピンに所在する財産についても日本において相続税が発生します。
なお、日本国内の財産だけに課税される人のことを制限納税義務者、海外にある財産も含めて課税される人のことを無制限納税義務者といいます。
被相続人と相続人のどちらも日本に居住していない場合
被相続人と相続人のどちらも日本に居住していない場合、つまり、亡くなった親とその子供がともにフィリピンに居住している場合などには、①被相続人が日本を離れて10年以上経過していて、かつ、②相続人の国籍が日本国籍ではないか、もしくは相続人も日本を離れて10年以上経過していれば、日本における相続税を免れることができます。
日本において相続税が課されるか否かの判定フローチャート
Q1:被相続人は日本に居住していますか
↓ No Yes → 課税
Q2:相続人は日本に居住していますか
↓ No Yes → 課税
Q3:被相続人が日本を離れて10年以上経過していますか
↓ Yes No → 課税
Q4:相続人の国籍は日本ですか
↓ Yes No → 非課税
Q5:相続人が日本を離れて10年以上経過していますか
↓ Yes No → 課税
非課税
外国税額控除
相続または遺贈によって日本国外の財産を取得した場合において、当該財産に日本の相続税と外国の相続税に相当する税が課されている場合には、外国で課された相続税に相当する金額を日本の相続税から差し引くことができる場合があります。
このように、国際的な二重課税を調整するために外国で納付した税金額を一定の範囲で日本の相続税から控除する制度のことを「外国税額控除」といいます。
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世界各国の遺産相続手続
当事務所で扱ったフィリピン以外の世界各国の遺産相続手続きについて書かれたコラムをご紹介いたします。
下記のコラムでは各国の遺産相続手続きについて詳しく書いていますのでタイトルをクリックしてぜひご参照ください。